609発目 伝説の話。



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ライナーノーツ



ここ、横浜ではどうだか分からんが俺の地元には伝説の男が数多く存在する。

夏休みや正月休みで旧友が集まると決まってあの頃の伝説の話になる。 中にはその伝説が誕生したときに現場にいた者もいる。彼らは決まって、「そこにいた」ことを自慢する。まるで自分の伝説のように興奮する。

 

そう言う私も実はある一つの伝説の目撃者だ。

 

伝説の男は「マブロー」と呼ばれていた。 それが本名だと言い張った。 どんな字を書くのか?と聞いたら「マブ朗」だと言っていた。おそらく嘘だろう。本名は確かマナブだったはずだ。

 

彼がひとたび口を開くと、次から次に嘘が飛び出てくる。どうでも良い嘘がほとんどだから罪はない。特に遅刻したときの言い訳などは斬新過ぎて感心するくらいだ。

 

「朝、時間通りに家を出ようとしたら階段のところに妹が画鋲をばら撒いていて、拾いながら降りてたら遅くなった。」

 

彼のこの言い訳の中には、これでもかと言うくらい嘘が詰まってる。 嘘の幕の内弁当と呼んでも良い。

 

まず、彼が住んでいた家は平屋だ。 そして妹はいない。弟がいるだけだ。更に彼がこの日学校に来た時間は午後1時過ぎだった。 当然先生は彼に対しこう言う。

 

「画鋲ひらうのに何時間かかったんか?何個くらいばら撒かれとったんか?」

 

「先生には言ってなかったけど、ウチの母ちゃんは今、文具屋にバイトに行ってて、たまに画鋲を持って帰ってくるんよ。それが多分、ぱっと見た感じで6万個くらいあったかなぁ?それを全部ば~ん」

 

彼にはお母さんはいない。もう何年も前に蒸発して彼はおばあちゃんと弟の3人暮らしだ。

 

そんなマブローが伝説を作ったのは、ちょうど今日みたいな暑い日だった。 私はノブに誘われて紫川の上流に泳ぎに行くところだった。自転車に水着とお着替えのセットを積み込み、日照りの中を隣町まで走っていた。

 

学校区の境目まで来たときに、一旦、紫川を反対岸に渡るための橋があるのだが、その橋の中央付近にマブローが立っていた。

 

「マブロー何しよんか?」

 

「ああ、ノブにいちゃん、サトル君。」

 

マブローは私達より3つ年下だった。ノブのことは「にいちゃん」と呼ぶが私のことは「君」付けで呼んでいた。

 

「今さ、俺の身体くらいの鯉を釣り上げよったんよ。途中で糸を切られた。」

 

マブローの身長は130センチくらいだったと思う。 そんな小柄なサンボと同じくらいの大きさの鯉? ああ、またマブローの嘘が始まった、それくらいに私達は思っていた。 だから、突っ込む。

 

「お前、釣竿持ってないやん。」

 

「竿ごと持っていかれたんよ。あいつ、この川の主やね。」

 

私達は橋の欄干から身を乗り出して川面を覗き込んでみる。 鯉どころかフナすらいない雰囲気だった。 当然、釣竿も見当たらない。

 

「にいちゃんたちは、何しよん?」

 

「今から泳ぎに行くんよ。」

 

「水着持っとん?」

 

「おお。」

 

「ここで、泳がん?そんで主を捕まえようや。」

 

私達はしょうがなくマブローに付き合うことにした。茂みの中で水着に着替え、石を伝いながら川の流れを目指した。マブローはTシャツと半ズボンを脱ぎ、ブリーフ一枚になった。

 

「この辺なんよ。このへんに主がおるんよ。」

 

それから一時間くらい、私とノブは川遊びを堪能した。 すでにマブローの鯉の話には興味をなくしていたし、そこにマブローがいた事も忘れてたくらいだ。

 

茂みの向こうの流れのないエリアから叫び声が聞こえたのは我々が帰る準備をしようと川原に上がったときだった。私はノブと顔を見合わせた。 二人とも危険を察知した顔だった。

 

つい、数日前に小2の男の子が川遊びの最中におぼれて命を失っている。 私達の地域では全体的に川遊びが禁じられていた。 「マブローに何かあったら俺たちも怒られる」 と自分達の心配だけをしながら叫び声の聞こえるほうへ足を向けた。

 

そこでは1mを超える巨大な鯉に抱きついたマブローの姿があった。

 

「ちょっと、手伝って!やっと捕まえたんよ!」

 

それはそれは恐ろしい光景だった。私達はしばし身体が固まったまま動けなかった。そのうちマブローは巨大な鯉のエラを掴んでそいつを片手で引っ張りながら岸へ上がってきた。

 

「お前、それ・・・」

 

私達は言葉を失っていた。

 

「ほらね、すごかろ? こいつがこの川の主よ。」

 

マブローは得意満面の笑顔で鯉を岸に放り投げた。

 

夏休みが明け、私とノブは学校で自慢した。 巨大な鯉を捕まえたことを? 違う違う。

 

「俺らはマブローが本当のことを言うのを初めて聞いた。」

 

次の日から私とノブが嘘つき呼ばわりされだした。誰も信じてくれなかったのだ。

 

「あのマブローが嘘以外のことを言うわけないやろ?」

 

 

数年後、マブローがとある犯罪で新聞の片隅に小さく報道された。 友人が教えてくれたのだ。 私はその新聞の切抜きを見て驚いた。私が知っているマブローの本名とは違う名前だったのだ。マナブではなかった。

 

「あいつさ、名前すら嘘やったみたいやね。」

 

彼の罪状は「詐欺」

 

 

ヤッパリネ

 

合掌



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