598発目 あえて大分に就職した話。


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そいつでダメなら代わりにこいつを、って方法が有効な時ってどんな時だい?

 

押してだめなら引いてみな、ってことか?

 

それとも、「お~っとここでラモスを下げて中山の投入です。後半残り15分、1点差を追う日本代表オフトジャパン!勝負に出ました!」みたいなことか?

 

1990年、バブル景気も終焉を迎えようとしていた。 終わりの始まりだな。 でもまだまだ、宴は終わっちゃおらんバイ、と福岡の天神親不孝通りは若者でごった返していた。

 

シンとマコはガツを誘ってナンパに来ていた。ナンパなんてやったことが無いと嫌がるガツを無理やり引っ張って来たのには訳がある。ガツが男前だからだ。

 

シンとマコもそこそこの容姿なのだが念には念を入れようということらしい。来月の夏祭りにはなんとしても女連れで行きたい、という思いがシンとマコを焦らせていた。

 

「大丈夫っちゃ。最初はオレかマコが声をかけるけん、最後のとどめはお前が決めてくれ。」

 

シンは段取りを説明した。 まずは女の子3人組を見つけ声をかける。そして乗ってきた車に乗せ夜景を見に行く。その日は何もせずに連絡先だけを聞き出して家に送る。そして来月の夏祭りに誘う。

 

全てがうまく行くと信じていた。

 

シンは早速見つけた3人組に声をかけた。

 

「お姉さん、暇やったら一緒にドライブでも行かん?」

 

女の子の一人がシンが指差した車をチラリと見やる。

 

「ごめん、先輩から北九州ナンバーの車には絶対乗るなって言われとうけん。」

 

二人の元に戻ったシンにマコが問いかける。

 

「どうやった?」

 

「北九ナンバーやけダメっち。」

 

「何やそれ!」

 

「ガツ。お前の車は確か筑豊ナンバーやったよの?今から取りに帰ろうや。」

 

シンは一旦ガツの自宅に戻り車を取り替えることを提案した。

 

数十分後に親不孝通りに戻ってきた3人はナンパを再開した。

 

「先輩に筑豊ナンバーの車には絶対乗るなって言われとうけん。」

 

「マジで?北九ナンバーやったら良かったと?」

 

「いや、どっちもどっちやろ?どうせ山に連れて行ってマワすんやろ?」

 

北九州ナンバーと筑豊ナンバーの評判の悪さは想像を超えていた。 どうする?と道端で相談を始めた3人に妙案が浮かんだ。

 

「白いテープで北を消して九州ナンバーにしたらどうなん?」

 

「おお!それいいの!」

 

もう一度、自宅に戻りシンは自分の車を引っ張り出す。 コンビニで白いガムテープを購入しナンバーの「北」の部分だけを隠した。

 

「どうや?」

 

「おお、ええやん。暗いところやったら分からんわ。」

 

3人はもう一度「九州ナンバー」のソアラに乗り込み親不孝通りを目指した。急げ急げ!早くせんと女の子がおらんくなるぞ!

 

昭和通を西に向かいシンはアクセルを深く踏み込んだ。

 

「前の車停まりなさい。前の白いソアラ、停まりなさい。」

 

やばい。スピードか?

 

「はい、車検証と免許証持って降りて来て。」

 

シンはマコとガツを車内に残し車を降りた。 気持ちは焦っている。

 

「ちょっとおまわりさん、勘弁してよ。そんなにスピード出てなかったやろ?俺たち急いどるんよ。」

 

「バカかお前。スピード違反やなかろうが! そのナンバーたい!」

 

「ナンバーがどうしたん?」

 

「九州ナンバーやら、あるか! なんでここ隠しとるんか?」

 

「ああああ、そ、それは・・・北九ナンバーやったらダメらしいんですよ。」

 

言い訳をするシンはしどろもどろだった。

 

「何がダメなんや?」

 

「いや、人気が無いと言うか・・・」

 

「警察には人気あるぞ~。北九ナンバーの車は悪さばっかりしよるけんのう。」

 

「はがします!すぐにはがします!」

 

「だ~め~。もう遅い。 ハイ、じゃああっちに乗って。」

 

そのままシンはパトカーで博多署へ連れて行かれる。 残されたソアラにもう一人の警官が乗り込みマコとガツを乗せたまま博多署へ連れて行かれた。

 

取調べを受け、違反切符を切られ、指紋や写真を撮られたシンは2時間後にようやく開放された。

 

翌日、ヤマシタの元にやってきたシンは一部始終を説明した後、こう切り出した。

 

「サトル、どこのナンバーやったらええんかのう?」

 

「宮崎か大分やねえんか?」

 

ヤマシタは適当に答える。

 

大学卒業後、シンが大分の企業に就職したという噂を耳にしたが真偽の程は定かではない。

 

ソコマデシテ

 

合掌

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