557発目 幼少のころの話。


ライナーノーツ

 横浜に来て驚いたのが、電車通学をしている小学生が結構多いと言うことだ。私が乗る地下鉄は7時45分に横浜駅に到着する。その朝早い電車でも2~3人の小学生が乗っている。今朝も、私が立つ正面にはランドセルより小さな子供が座っていた。おそらく1年生か2年生だろう。みるからに賢そうな顔をしている。きっと将来は偏差値の高い高校に進学し、有名大学を経てアメリカに留学。そのままニューヨークの投資銀行でバリバリ活躍するんだろうな、と想像を膨らませてみる。きっとお勉強のこと以外でお母さんに怒られたことなどないのだろうな。お母さんのことを「お母様」って呼んでるんだろうな。

 

お母さんに怒られたといえば、自分の小学生のころを振り返って恥ずかしくなってしまう。

 

チロリアン

 

チロリアンのこんな缶を覚えているだろうか? 私はこのカンカンに丸虫、つまりダンゴ虫を捕まえてきていっぱいにしたことがある。それを食卓の上に置いていたのだが、それを開けたお母さんにこっぴどく怒られた。

 

「あんたは、1回の説教で2つ怒られよるんよ!1つは、こんな大量の虫を捕まえる暇があるくせに宿題をしてないこと。そしてもう一つはそれを食卓に乗せたこと!」

 

もちろん私には悪気はない。開けたお母さんが悪いのだ、と思っていた。だから後悔はしたが反省はしてない。

 

とびばこ

 

どうしても跳び箱の7段が飛べなくて、自宅で練習しようと思った。だから体育館に忍び込み自宅に跳び箱を持って帰った。リビングに置かれた跳び箱をみたお母さんにこっぴどく怒られた。

「あんたは1回の説教で3つ怒られるんよ!1つは跳び箱を盗んだこと。そして2つめはこんな重たいものを時間をかけて運ぶ暇はあるくせに宿題をしてないってこと。そして3つめはそれをこんな邪魔くさいところに置いたってこと!」

 

もちろん、言うまでもないが私に悪気なんかこれっぽっちもない。邪魔なら飛んでしまえばいいのに、と思っていた。もちろん、今回も後悔はしたが反省はしなかった。

 

だが、ここらへんで傾向と対策が思い浮かんでくる。つまり小さいながらも学習能力はあったのだ。お母さんは結局のところ「置き場所」に対して怒っているのだ、と。余計なものをリビングやダイニングに持ち込むな、と。そう言うことか。傾向と対策が思いつけば後はこっちのモンだ。

 

季節は夏。

せみの抜け殻

 

私は裏山で大量の蝉の抜け殻を仕入れた。そしてそれを家に持ち帰り2階にあるお母さんのクロゼットへ持ち込んだ。クロゼット内の床に置いていたら踏み潰されてしまうと考えた私は、そこにかけてあったお母さんのジャケットにくっつけた。

 

だが、今回もクロゼットを開けたお母さんにこっぴどく怒られた。

 

「あんたねぇ。1回の説教で何個くらい怒られると思っとるんね!」

 

「さあ、2個かいな?」

 

「今回は4つ。1つ、こんな柄のジャケット持っとったっけ?と思ったわいね。2つ。あんな大量の抜け殻を拾いに行く暇があるくせに宿題をしとらん。3つ。気色悪い。そして4つ。よりによってクロゼットに隠してばれないと思った浅はかさ。」

 

まあ、もちろん悪気はないよ。後悔も反省もしなかったしね。

 

大人になってこの話をお母さんは私の奥さんにしたそうだ。奥さんは激しく同意し、もしウチの息子がそんなことしたら、顔の形が変わるくらいぶん殴りたくなるね、とも言っていたらしい。

 

横浜駅に電車が到着する旨のアナウンスが流れた。目の前の小学生は開いていたランドセルを閉じようとしている。そのかばんからコロンと何かが落ちた。いや、コロンじゃないな。バラバラバラ、だ。

 

隣に座っているOLが悲鳴を上げた。車内は一瞬、凍りついた。あわててそれを拾う小学生の肩越しに何を落としたのか覗いてみると、ゴムでできたムカデのおもちゃだった。

 

少年よ、お前もか。 お前もこっち側の人間だったんだな。

 

ショウライユウボウ

 

合掌

 

 

 

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