510発目 スカーレットとレットの話。


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大通公園を大きな声で

叫びながら走っている

おばちゃんがいた。

 

右手にはリードに繋がれた

犬が一緒に走っている。

 

いまにも転びそうで

危なっかしい。

 

『マーガレット~~!

マーガレッッット~~~!』

 

周囲の誰もが何事かと

おばちゃんに注目する。

 

髪を振り乱して一心不乱に

叫んでいる。

 

よく見るとリードを引きずりながら

逃げ回っているもう一匹の

犬がいた。

 

どうやら、おばちゃんの左手から

逃げ出したみたいだ。

 

マーガレットとは、あの犬の

名前だろうか?

 

若い女性の二人組みが

マーガレットを捕まえるのを

手伝ってあげようとしたが

マーガレットの素早さに

ついて行けなかった。

 

おばちゃんは私の近くで

膝を折り、ぜいぜいと

息を整えていた。

 

『そちらを私が預かって

おきましょうか?』

 

私は犬を捕まえるほどの

体力はないが、もう1匹を

持っているくらいなら出来る。

 

『ああもう!すみません。

じゃ、お言葉に甘えて。

いいですか?』

 

『はいはい。お安い御用ですよ。』

 

『じゃ、お願いします。

ミッチェル!イイコに

してるのよ。』

 

おばちゃんは私に犬を

渡すとまたもやマーガレットめがけ

走っていった。

 

私は私の足元に座る

小さな犬に話しかけた。

 

『お前も自由になりたいか?

ミッチェル?』

 

一瞬、このリードを手放そうとも

考えたが、それでは

あまりにもおばちゃんが

かわいそうだ。

 

しばらく、ベンチに座り

おばちゃんと若い女の子二人と

マーガレットの逃走劇を

観ていた。

 

 

 

しばらくしてようやくマーガレットを

捕まえたおばちゃんは

喉をぜいぜい鳴らして

私のところへ戻ってきた。

 

『助かりました。ありがとうございました。』

 

おばちゃんはそう言って

私からミッチェルのリードを

受け取った。

 

『ミッチェルはイイコなんですね?』

 

『そうなんですよ。対照的に

こっちのマーガレットは

やんちゃで困るんです。』

 

私はふと頭に浮かんだ疑問を

おばちゃんにぶつけてみる。

 

『明日から私はどうしたらいいの?

と聞かれたら何て答えます?』

 

するとおばちゃんはニヤリと

笑って、こう答えると思った。

 

『I don’t give a damn.』

 

だが、おばちゃんはそうではなく

 

『え?なんですか?

どういう意味ですか?』

 

と不思議そうにした。

 

そこで私は質問を変えた。

 

『犬達の名前の由来は

何ですか?』

 

『なんとなくですよ。

娘達がつけたの。

呼びやすいでしょ?』

 

『ご存知ですか?』

 

『何をですか?』

 

『マーガレット・ミッチェルって

風と共に去りぬの原作者ですよ。』

 

おばちゃんは驚いた顔をして

 

『有名な歌ですよね?』

 

と言った。

 

私は教養のない年寄りは

大っ嫌いだ。

 

アシタハ、アシタノカゼガフク

 

合掌

 

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