505発目 今からでも間に合う話。


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ふと、ある話題がきっかけで

子供の頃に描いていた

夢の話になった。

 

 

 

私の正面に座る男性は

栃木県出身で小学生の頃に

親の転勤に帯同し、ここ

北海道に来たのだそうだ。

 

ちなみに帯同とは

仕事に部下を連れて行くことで

転勤に伴い家族を

連れて行くこととは

意味が違うが、そこは

指摘せずにおこう。

 

で、北海道の帯広市の小学校を

卒業する際に卒業文集に

将来の夢を書いていたそうだ。

 

彼によると、彼の少年時代に

描いた夢は宇宙飛行士だったそうだ。

 

先日のニュースで話題になった

宇宙飛行士は小学校の頃から

火星に行きたがっていた。

それに比べ私は早々と

夢をあきらめましたよ、と

半ば自嘲気味につぶやいた。

 

1965年生まれと言ってたから

今年で50歳になる彼に

 

『今からでも間に合いますよ!』

 

と励ますのはいささか

無責任と言うものだ。

 

周囲の人は彼の話に

うなづきつつ、同意した。

 

そういえば、と語りだしたのは

私の隣に座る男性だった。

 

長崎県出身の彼は

私と同じ九州だからという

理由で私にだけは

馴れ馴れしかった。

 

東京の大学に進学し、

そのまま東京で就職し

東京出身の女性と

結婚したが、6年前に

札幌支店に転勤を

命ぜられ単身赴任を

しているそうだ。

 

彼の夢はサッカー選手。

 

きっかけはキャプテン翼を

観たからだという。

 

彼の年齢は聞いたことが

無かったが、そうゆうことであれば

私と同年代かもしれない。

 

やはり小学校の卒業文集で

そう書いたそうだ。

 

彼は一応、その後も

夢に向かって高校までは

サッカーを続けたが

膝の故障で夢をあきらめたとのこと。

 

『ま、膝の故障が無くても

プロにはなれなかったと

思うんですよね。』

 

自嘲気味につぶやく彼に

 

『今からでも間に合いますよ!』

 

と励ますことは、やはり出来ない。

 

ヤマシタさんは?と

私のはす向かいに座る

男性が尋ねてきた。

 

私は自分の小学生時代に

思いをめぐらせるが

思い出せない。

 

『そんな小さな頃の夢は

覚えてないですね。

ただ、今の自分を

夢に描いていたとは

思えないので、やはり

夢は叶ってないのかも

しれません。』

 

すると、はす向かいの人が

問わず語りに話し出した。

 

『プロのダンサーを目指してました。』

 

驚く一同をゆっくりと見回した後、

こう続けた。

 

『驚くでしょう?こんな体型の私が

ダンスなんて?

でもあれですよ、エグザイルみたいな

あんなダンスじゃありませんよ。

ソーシャルダンスです。』

 

理由は分からないが何故か

ほっとした。

4人の中で一番の年長者である

彼がポップなブレイクダンスを

習得しているとは思えなかったし、

思いたくなかった。

 

『小学生の頃は親から無理やり

習わされてたんです。

まあ、その頃は嫌で嫌で

しょうがなかったですね。

で、中学に上がったときに

部活を口実に辞めたんです。

でも、アトランタオリンピックが

開催された年にですね・・』

 

そこで彼は言葉を切って

周囲を見回した。

 

『覚えてます?アトランタ。』

 

アトランタオリンピックと

ソーシャルダンスのつながりが

まるっきりわからなかった。

 

『いつでしたっけ?』

 

と指を折りながら数えているのは

宇宙飛行士だ。

 

『96年でしたっけ?』

 

サッカー選手がそう答えた。

 

『正解です。1996年。』

 

宇宙飛行士が尚も尋ねる

 

『それとダンスと・・・』

 

『その年にあの映画が

公開されたんです。』

 

私は指を鳴らした。

 

 

『Shall We ダンス? ですね!』

 

『そうです!そうです!

よく覚えておいでで。』

 

『あ~!行きましたよ私も

今の嫁さんと結婚前に。

96年か~。そんな前でしたっけ?』

 

サッカー選手はうれしそうに

つぶやいた。

 

『その映画がきっかけでもう一度

ダンスを始めたんです。

でも・・・』

 

でも?

 

『25年のブランクを埋めることは

できませんでした。』

 

続けておけばよかったと

後悔したそうだ。

 

『今からでも間に合いますよ!』

 

とは、やはり言えない。

 

 

 

次の休日に私は実家に

電話をした。

 

電話に出た母親に小学校の

卒業文集をとっているか

尋ねてみた。

答えはYESだった。

私は母親に、暇なときでいいから

私がどんな夢を記述しているか

見ておいて欲しい、と告げた。

 

ところが母親からは

意外な言葉が告げられた。

 

『覚えとうよ。』

 

え?

 

『あんたが何ち書いたか

わたし覚えとうよ。』

 

母親によるとこうだった。

 

当時、私が持ち帰った

卒業文集を読んで

愕然としたそうだ。

 

他の子たちが、やれ

プロ野球選手だ、やれ

サッカー選手だ、やれ

パイロットだと書き連ねる中、

私だけがタクシーの運転手

と書いていたそうだ。

 

タクシーの運転手?

 

タクシーの運転手には

悪いが、なんじゃそら!と

思ってしまった。

 

当時の母親が私に

尋ねたら車が好きだから

と答えたとのこと。

 

 

『今からでも間に合いますよ!』

 

誰かにそういわれた気がした。

 

ベツニナリタクナイシ

 

合掌

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