502発目 東京と埼玉の話。


ライナーノーツ

出張のついでに友人の住む埼玉へ

足を伸ばしてみました。

 

埼京線で池袋から向かいました。

 

池袋は普段私が利用する

札幌の地下鉄と比べても

人の多い駅です。

 

埼京線にもたくさんの人が

乗ってきました。

 

私は大宮までの長い行程を

立って過ごす覚悟を決めました。

 

ところがこんなに混んでいる

電車の中に一つだけぽっかりと

空いてる席があったんです。

 

そう、まるで大地に空いた

落とし穴のように。

 

私は事情も分からず

誰も座らないなら

おいらが、へへへ、と

下衆な笑いを浮かべながら

座りました。

 

そうなんです。

 

今思えばあんなに混んでいるのに

ひとつだけ空いていたことを

疑問に思うべきでした。

 

軽率でした。

 

座ってすぐに私は鞄から

本を取り出し、読もうとしました。

 

ところが隣に座るおじさんが

 

『う~~~っぷす』

 

と、割と大きな声で言うんです。

 

え?なに?

 

と思いました。

 

周囲の人は知らん振りです。

 

 

『しゃ~おらぁ。』

 

って言ってます。

 

で、足を広げて座りなおしました。

 

足を広げたことで、おじさんの足が

私の膝に当たりました。

でもおじさんは足を閉じません。

 

若い女の子のふとももを

感じるのなら私も我慢します。

でも、見ず知らずのおじさんの

足のぬくもりは我慢ならんのです。

 

私は意を決して左手で

おじさんの足をぐいっと

押しました。

 

案に相違しておじさんは

素直に足を閉じました。

 

でもすぐに何事も

なかったように

 

『うぃ~~~~~~っぷす』

 

って叫びました。

 

やはり周囲は知らん振りです。

 

もちろん、静かな車内に

響き渡る大声も耳につくんですが

なによりも私が気になったのは

 

『うぃ~~~~~~っぷす』

 

の意味です。

 

どういう意味だろう?

 

それからもおじさんは

駅に着くたびに

 

『うぃ~~~~~~っぷす』

 

って言ってます。

 

『しゃ~おらあ。』

 

とも言ってます。

 

酔っ払ってるのかとも

思いましたが、

隣に座る私にはお酒のにおいは

確認できませんでした。

 

どちらかというと私のほうが

お酒臭いのではないでしょうか?

 

隣で見ているとなんだか

おじさんがすごく気持ちよさそうに

叫ぶのが更に気になりました。

 

『うぃ~~~~~~っぷす』

 

ちょっと真似して言ってみようかな?

いや、そんなことしたら

周囲から奇異な目で見られるぞ。

ん?

周囲から奇異な目で見られるか?

誰も見てないぞ。

いや、これは

見て見ぬ振りだな。

かわいそうなおじさん。

せっかくの渾身の

『うぃ~~~~~~っぷす』

が誰にも見てもらえないなんて。

 

さっきは足をぐいってして

ごめんね。

オレが見届けてやるよ。

 

そう心の中でつぶやき

私はおじさんの

 

『うぃ~~~~~~っぷす』

 

を直視しました。

 

私の視線を感じたのか

おじさんは私をじっと

見つめてます。

目も合ってます。

私はその視線を外さずに

おじさんをじっと見ました。

 

見て欲しかったんだろ?

おじさあん。

誰かに『うぃ~~~~~~っぷす』

を見て欲しかったんだろ?

 

おじさんは、たっぷりと

時間を掛けて私をみつめ

こう言いました。

 

『なに見てんだコノヤロウ!』

 

あ、そっち?

やっぱ、そっち?

 

私はあまりにもまともな

反応に拍子抜けしつつ

おじさんに言い返しました。

 

『うぃ~~~~~~っぷす、なんて

叫んでたら誰でも見るやろうも?

オレの地元にも札幌にも

そんなヤツはおらんぞ。

見られたくないなら

もう言うな。うぃ~~~~~~っぷす

って言うな。』

 

そう言った瞬間、車内が少しだけ

ピリついた感じがしました。

 

でもおじさんは私に

こう言い返しました。

 

 

『東京だとあたりめぇなんだよ

兄ちゃんよう。

どこの田舎モンか知らねぇけど。』

 

なるほど、と思ったが

私の右隣の人が

小さな、ごくごく小さな声で

 

 

『東京にもめったに

いねぇよ。』

 

って言ってました。

 

しかも、ここ

埼玉ですしね。

 

ヘンナオヤジ

 

合掌

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