481発目 神社と彼女と彼女の正体、の話。


 

ライナーノーツ

高校生の頃はマセていた。

 

夜の街に出かけて行き

自分より年長の人と遊んで、

同級生が知らないような

夜の世界にのめり込んでいった。

 

その遊び相手のほとんどが

ミュージシャンや

ダンサーだったが

彼らが連れて行ってくれる店は

必ずと言っていいほど

ゲイがいる店だった。

 

当時の彼ら(彼女ら?)は

ニューハーフと呼ばれており

そのニューハーフ達が

繰り広げるパフォーマンスは

それはそれは素晴らしかった。

 

勿論、自らゲイ、つまり

同性愛であることを公言する

人もいれば、タダの女装癖だったり

思想や思考は様々だが

共通して全員が女性の格好を

していた。

 

なかでも派手なつけまつげに

ど派手な髪形をし、派手な

ドレスを着てスカートを引きずりながら

街を闊歩する集団は

店外でも有名になっていった。

 

いわゆる drag Queen だ。

 

薬物などの drug と混同するので

日本語表記にするときは

『ドラァグ クイーン』 と記述する。

 

最近だとマツコデラックスなんかが

それにあたる。

 

 

中には本物の女性顔負けの

美人もいる。

 

私が出会ったドラッグクイーンが

そうだった。

 

名前を聞くとサユリだと答えた。

 

その店は女言葉を使う

オッサンが化粧をして接客する

中途半端なオカマバーだった。

 

サユリはカウンターの中にいたが

自分も実は客なのだ、と言った。

 

『よく来るの?』

 

驚いて絶句したのは

聞きなれない標準語のせいではなく

その美しすぎる容姿のせいだった。

 

こんな美人、見た事ない。

 

『あ、たまにです。』

 

『いくつ?』

 

『あ、16っす。』

 

『未成年じゃん。』

 

そう言って、ほっぺに

キスをされた。

 

正直言って舞い上がっていた。

 

頭の中がぽーっとしてきて

彼女以外の景色が見えなく

なるほどだった。

 

はっ!

 

いかんいかん。

 

いくら美人とはいえ、あの人は

男だぞ!

 

『またね』

 

そういって立ち去るサユリの

後姿を見ていると

 

『本当は女なんじゃないか?』

 

と思えるほどだった。

 

プリンとしたお尻。

くびれたウエスト。

 

何より、まだほっぺに残る

柔らかい唇の感触。

 

ウソばかりの夜の世界だから

あえて、オカマのフリをしている

女性かもしれない。

 

私はまた彼女に会いたくなり

その店に出向いた。

 

店内にはサユリは見当たらない。

 

マスターの松ちゃんに聞いてみる。

 

『ねえ、松ちゃん。

サユリっていう綺麗な人は

いつも何時ごろ来ると?』

 

『あらあ、サトルちゃぁん。

サユリのこと気に入ってるの?

あいつは悪魔よ! 外道よ!

やめときなさい!』

 

『え?でもすごい美人やん。

あの人、本当に男なん?

声も女の人みたいやし。』

 

『どうかしらね。あの子が

この店に来出したのって

最近だからあたしもよく

わかんないの。

フリの子も結構おるから

そうかもね。』

 

『なんでオカマのフリとか

するんやろか?』

 

『ナンパされたりするのが

イヤやからやない?』

 

 

私は気になり続けた。

あれ以来、サユリに

会えなかったから余計に

気になった。

 

 

数週間が経過したが

サユリには会えなかった。

 

とある土曜日の夜。

私は自分のバンドのライブの

打ち上げで居酒屋にいた。

広島出身のご夫婦が経営する

お好み焼き屋だった。

 

お好み焼き屋の2軒隣には

小さな神社があった。

神社のクセに木が少なく

周囲の道路から敷地内が

丸見えの神社だ。

 

1次会が終わりいつものように

2次会会場へ移動する際に

用を足したくなった私は

神社に立ち寄った。

 

『ごめん、先に行ってて。』

 

みんなに後から追いかける、と

告げて私は神社の敷地の中に

入って行く。

境内の陰になった場所に行かないと

用を足している姿が丸見えに

なってしまうことは

何度もこの神社で立ちションを

している私にとっては

既知の事実だった。

 

境内を時計回りにぐるっと

裏に回りこむ。

 

人の気配がしたので

立ち止まった。

 

薄暗い神社の境内の裏手に

人影が見えた。

この場所を知ってるなんて

通やな。

 

目を凝らしその人物を

じっと見据えた。

 

 

 

そこには立ちションをする

サユリの姿があった。

 

ヤッパオトコヤッタンカ

 

合掌

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