474発目 悔しがる話。


ライナーノーツ

学生時代、制服を着るというルールが

理解できなかった。

 

何故、全員に同じ服を着せたがるのか?

学校側の意図が全く分からなかった。

 

何故、細かい規定を設けて

ソレを守らせようとするのか?

全く理解できなかった。

 

前髪はまゆげのトコロまで。

 

何故ですか?と教師に尋ねても

明確に答えてくれない。

 

『そうゆう校則だからだ。』

 

と言う。

 

それは私の質問に対する

回答にはなってませんよ。

校則というよりは拘束ですね。

と反論すると

 

『お前は生意気だ。これからもっと厳しくしてやる。』

 

と言うではないか。

 

制服のズボンは腰の辺りに校章が

刺繍されているもののみが着用可。

 

同じ形でも校章が入ってないズボンが

どうしてダメなんですか?

それを履く事で私の未来がどう変わるのですか?

 

『そうゆうルールだ!』

 

想像するに、この制服や身だしなみの

規定というのは、教師自身も

若い頃に言われるがまま、ルールを

守らされて悔しかったから

自分が教師になってその頃の仕返しを

しようとしているのではないか?

 

そう疑われても仕方が無いくらい

理にかなってない規則だ。

 

『先生、想像してみてください。

他人が自分と同じ格好を

しているときの悔しさを。』

 

そう提言する私を毛嫌いする蛇でも

見るような目で蔑む教師達の

顔を私は一生忘れないだろう。

 

『ヤマシタ、そんなことで

悔しがる人間はおらんぞ。』

 

言ったな?

確かにあの時、あなたはそう言いましたよ。

 

あれから約30年が経過した。

 

舞台は札幌市営地下鉄南北線、

北12条駅の改札だ。

 

朝のラッシュ時ではあるが

乗客のほとんどは札幌駅で

降りてしまうので、車内は

比較的空いている。

 

私の前に立つ女性は

ギンガムチェックの七部丈のパンツに

白いコットン素材のカーディガンを

羽織っている。

 

ドアの脇に立ち、一心不乱に

スマートホンの画面を覗き込んでいる。

仮に私が福山雅治であったとしても

気がつかないほどの集中力で

スマートホンを操作する女性の

横顔は見ていて飽きない。

 

車内アナウンスが北12条駅に

到着することを告げた。

 

女性ははっと顔を上げドアの上部に

ついた電光掲示板を見る。

 

掲示板にはこう表示している。

『次は北12条』

 

彼女もこの駅で降りるのだな。

スマートホンを鞄に戻した。

 

まるで大きな動物が息を吐くような

音をたてて電車は駅に滑り込む。

 

ぶしゅうううう。

 

駅への到着を告げるアナウンスのあと

ドアが開いた。

 

一足早く隣のドアから降りてきた

女性が私とギンガムチェック女の

前を通り過ぎた。

 

降りようとしたギンガムチェック女は

足を止めた。 突然のことだったので

私は彼女の背中にぶつかった。

 

小さな声で謝罪し彼女の顔を

覗き込むと、先ほどわれわれの前を

通り過ぎた女性を見つめていた。

 

通り過ぎた女性はギンガムチェックの

七部丈のパンツにアイボリーの

カーディガンを羽織っていた。

 

ギンガムチェック女は、いや、

もはやギンガムチェック女は二人いる。

私の近くの、つまり自分と同じ格好の女を

見つけたほうの女は、苦い虫を

口の中に入れられたような

表現のしにくい表情をした。

 

そしてたっぷりとその女性と距離をとり

改札へと向かった。

 

先生、今のシーンを見ましたか?

他人が自分と同じ格好をしているのを

発見したとき、人は見事なまでに

複雑な心境に陥り、悔しがるんですよ。

 

改札を抜け、地上に上がると

信号待ちをしているギンガムチェックの

女が二人並んで立っていた。

 

まるで、

『ギンガムチェックのパンツは

私のほうが似合ってるわよ!』

と言わんばかりの勢いだ。

 

隣に立ち女性の顔を見比べた。

 

二人とも悔しそうな顔をしていた。

 

 

カバンマデカブッテタ

 

合掌

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