467発目 説得力の無い話。


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たまたま訪れた企業でちょうど社長から社員が説教をされている場面に出くわした。 社長は椅子に座り、正面に社員を立たせている。 受付のところからすぐの所にもかかわらず、社長は私が来訪したことに気がついていない。

 

『そんな髪型でお客様がどう感じるか、考えたことはないのか!』

 

顔を真っ赤にして怒っている。 想像するに、その怒られている社員の髪型が社長のお気に召さなかったようだ。 そりゃ、そうだ。 私から見てもおかしい。 その社員の髪型は明るい茶色で染められており、長髪はパーマをかけているのか、ゆるくウェーブしている。 随分と髪型にこだわりがあるのだろうか?

 

『髪の毛ばっかりに気を使って、靴はぼろぼろだし、ワイシャツはしわくちゃじゃないか!』

 

確かに、服装には無頓着なのか、ワイシャツの袖は肘までまくり上げ、襟以外はしわくちゃだ。スラックスのプリーツも取れていてお尻の下あたりがしわくちゃになっている。 おまけに丈が短く、いわゆる『つんつるてん』のズボンだ。

 

『身だしなみをきちんとして相手に不快感を与えないのは営業の基本だろうが!』

 

怒られた社員はうつむいていた顔を上げた。

 

『明日までに髪の毛を切って、服装もきちんとしてきます。 すみませんでした!』

 

社長はその言葉に納得したのか、椅子から立ち上がった。 そこに受付の女性が近づいていき耳打ちをした。 社長はようやく私の来訪に気がつき、こちらを向いて会釈した。 女性が応接室へ私を案内した。

 

上着を着て社長が応接室に現れた。

 

『いやあ、ヤマシタさん、お見苦しいところをお見せしてすみませんでした。』

 

社長は私に深々と頭を下げ謝罪した。

 

『私は見た目で相手に不快感を与えるのが許せないんですよ。 つまらんことで人の風下に立つなと、いつも言って聞かせてるんですよ。』

 

私はこの社長の考え方に賛成だ。 つまらんことで人の風下に立つのは確かに避けたほうが良い。

 

『でも素直な方でしたね、先ほどの方も。』

『そうですな。素直が取柄のヤツなんですよ。 だからなおさら・・・』

 

私は基本的に部下を叱るときは他人の目が無いところを選ぶようにしている。 そう社長に告げると、社長は

 

『いや、私も普段はそうなんですけどね、あの格好のまま出かけようとしたから、ちょっと・・』

 

でも、そのことで社内が険悪な雰囲気になってないし、これはやはり社長の人柄なんだな。 あらためて社長の格好をみると、今日もビシっと決まっている。 オーダーの淡いグレーのスーツは上品で、決して派手ではないが相手に安心感を与えるし、靴も舐められるくらい磨きこまれている。 ビシっと撫で付けた髪型は1本も乱れておらず、隙が無い雰囲気もある。

 

ただ。

 

一つだけ難点を言わしてもらえば。

 

 

 

 

 

チャックが開いている。

 

 

シャチョ~ウ

 

合掌

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