463発目 鯖の話。


鯖

魚の中でも『鯖』がもっとも好きな魚の一つである。 煮ても良し、焼いても良し、場合によっては刺身でも良し、と3拍子揃っている。 ボラの対極にある魚と言っていいだろう。

 

『鯖』という魚は非常に傷みやすい。加えて港に水揚げされる数も相当なものだから、漁協の人も数を数えるときに適当にサササ~っと早口で数える。 ちまちまやってたら傷んでしまうからだ。 あまりにも早口で数えるもんだから実際の数と合わないことが多い。

 

このことから、いい加減に数えることを 『鯖を読む』 と言う様になった。

 

昔、私が29歳の頃によく行っていたキャバクラに21歳の女の子がいた。 童顔で目がクリクリっと丸く、ぽっちゃりした唇は男好きしそうな顔だった。 客層は30代中ごろが多く、私は客の中でも若い部類だった。 彼女の名前はカオリという。 一緒のテーブルに着く他のホステスはみな、カオリに敬語を使っていた。 25歳の子も27歳の子も、みんなだ。 やはりホステスの世界でも先輩後輩は年齢に関係なく敬語を使うのか。 厳しい世界だ。

 

だが、通いだして2年が経過した5月のある日、私は店でカオリのバースデーに遭遇した。 壁にかけられた横断幕には 『カオリちゃん、ハッピーバースデー21歳』 と記載されていた。 大小様々な花束に囲まれてカオリはとても浮かれていた。 客足が少し途絶えた時にカオリが近づいてきた。

 

『カオリ、誕生日やったんか?』

 

『そうそう。』

 

『お前、一昨年も21歳やったやんか。』

 

『あれ、覚えてた?』

 

『むちゃくちゃやんか、お前。本当は何歳か?』

 

『サトルと同じ。』

 

そう言って免許証を見せてくれた。 免許証の生年月日は 昭和45年10月26日 と記載されていた。

 

『お前、誕生日もウソやないか!』

 

やがて彼女はその店を辞め、東京へ行った。 私は東京に出張の際に彼女に連絡を取り、彼女が働く六本木の店に顔を出した。 その店で彼女は32歳ということになっていた。 当時は38歳のはずだ。

 

鯖を読むというのはこれくらい大胆でないといけないな。

 

夏川純に捧ぐ。

 

ヨルノセカイハ、ウソダラケ

 

合掌

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