445発目 全員を敵に回す話。



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ライナーノーツ







以前は副鼻腔炎のことを蓄膿症と呼んでいたと思う。 中学2年生のとき、アレルギー性の慢性鼻炎だった私は母親に連れられて大分県の日田市に来ていた。 電車を乗り継ぎ2時間くらいかけてやってきた。 その日は学校で陸上大会が開催される日で、私は初恋の女の子にいいところを見せようと張り切っていたため、休むことを拒んだ。 だが母親がその日の予約を逃したら1年先まで診察してもらえないという。 有名な耳鼻科で九州一円から鼻炎で悩む患者が多数訪れるらしい。

 

『あんた、そんな鼻炎のままじゃ息が臭くて、その女の子にも振られるよ。』

 

の一言が決定打だった。 私はやむなく学校を休む決意をし母親についてきた。

 

今思えば、我が子の悪いところはなんとしても治してあげたいという親の心理は理解できる。良い医者がいると聞けば、そこへ連れて行って治療してあげたい。わらにもすがる思いだったはずだ。私はそんな母親に感謝した。

 

日田駅に降り立ったのはそれでも早朝の7時くらいだった。 小倉を始発で出発したからだ。駅からの道のりは母親の知り合いが描いてくれた手書きの地図だ。 失礼を承知で言えば、その地図は汚くて見にくかった。 いや醜かった、と言いかえても良い。 だが、なんとか病院までたどり着いた。

 

病院の玄関には受付を待つ長蛇の列が。 こんな早朝から診察を待つのか!と驚いた。 我々は予約をしていたのでその列に並ぶことなく受付を済ますことが出来た。 受付の女性が私の診察時間はおよそ4時間後です、というので母親と昼食を食べに一旦、院外に出た。

 

昼食を済ませ、本屋に立ち寄り待合室で時間をつぶそうと病院へ戻る。 長蛇の列は短くなるどころか、先ほどよりも長くなっていた。 母親が列の中ほどのところに並ぶ人に話しかけた。

 

『予約はしなかったのですか?』

 

その女性は悔しそうに『予約したけど1年待ちなの。 でも毎日数人は予約以外の患者も診てくれるらしいから、こうして並んでるのよ。』 と告白した。

 

昨晩から並んでいるらしく、あと3日は覚悟しているとのコト。 こんな寒空で野宿したら鼻炎が悪化するんじゃないかと思ったがそれを口には出さなかった。 あらためて1年前から予約を入れてくれた母親に感謝する。

 

病院の待合室は更にごった返していた。 ストーブの周りに人が集まり、数十人が名前を呼ばれるのを待っている。そいつらの全員が例外なく洟をすすっている。 ところどころではティッシュを手に洟をかんでいる。 そうか、こいつらは全員、鼻炎なんだ。

 

漫画雑誌を3冊ほど読み終えた。それでも時間があるので新聞を読んだ。 そしてようやく名前が呼ばれた。 こちらでお待ちください、と通されたのは10人ほどが座ることの出来る部屋だった。 まだ待つんかい!と思ったがぐっとこらえた。 入り口のプレーと見ると 『第2待合室』 と書いている。 奥のドアにはカーテンがしてあり様子は分からない。 とたんに私は不安になった。

 

『もしかして第450待合室まであったらどうしよう。』

 

そんな心配をよそに、第2待合室で待つ10人の中では私の名前が最初に呼ばれた。 カーテンをくぐるとそこは診察室でリクライニングシートが5つ並べられている。 空いているシートに案内されエプロンみたいなのを着せられた。 マスクをした先生がやってきて正面にドカっと座った。何らかの器具で鼻の穴をグイッと広げられ中を覗かれる。

 

『まだ蓄膿にはなってないね。 蓄膿になるとあんな風になるよ。』

 

医者はそう言って隣を指差した。 私の隣ではメスを持った別の医者が今まさに患者のどこかにそのメスを突き刺そうとしているところだった。

 

『な、な、何が始まるん?』

 

あせった私は医者に尋ねた。医者は黙ってみてろと言わんばかりに隣の患者を見つめている。隣の医者は患者の上唇をめくるとその内側にメスを入れ、今度はそこから顔面をベロンと剥がした。 いや、実際は剥がしたわけじゃないが私にはそう見えた。 剥がした部分から血に混じった膿がドボドボと流れ出てきた。

驚きと恐怖で固まった私に医者は向き直りこう告げた。

 

『放っておくとあんなに大変な手術になるんだよ。』

 

そう言うと針金みたいな器具に綿をくるくると巻いたものを看護婦から受け取り薬をつけて私の鼻の穴に刺そうとした。

 

『ちょ、ちょっと待って!』

 

私は抵抗した。 何しろあんなものを見せられた後だ。 説明してもらわないと怖くて仕方がない。医者は軽く小馬鹿にしたような笑い声を上げ、こう説明した。

 

『今溜まってる膿を、この器具で吸い出すための麻酔だよ。』

 

左手を見ると細く先の曲がったパイプのようなものに引き金がついている器具を持っている。医者が人差し指で引き金を引くとしゅ~しゅ~っと音がする。 なるほど、鼻専用の掃除機みたいなものか。これくらいで済むのなら我慢しよう。 改めて蓄膿になる前につれてきてくれた母親に感謝した。

 

『細いけど、奥のほうに入れると痛いかもしれないから、一応ね、麻酔をしとこうと思って』

 

そう説明する医者のことを私はまだ完全には信用してない。 だがそんなことはお構いなしに医者は私の鼻の穴にその針金を刺し込んだ。

 

不思議と痛みは感じなかった。 だが、鼻の穴から5センチくらい針金が出ている。両方の穴からだ。 針金の取っ手の部分は青いプラスチックがついている。 つまり私の鼻の穴から出ている部分は青いプラスチックなのだ。

 

『はい、じゃあ待合室で待っててね。』

 

『え?この状態で?』

 

中学2年というと多感な時期だ。 私はその格好で人前に出るのが恥ずかしかった。 どうにかこの診察台の上で待たせてもらえないかと嘆願した。 だが無情にも医者は次の患者の元に行き看護婦は笑いながら私を待合室へと誘う。

 

これはつらい。

 

両方の鼻の穴から漫画のようなアオッパナが出ているような格好だ。 大好きなあの子に見られないことが唯一の救いだが恥ずかしい。

 

私は大人の言うことをあまり聞かない少年だった。 だからこんな恥ずかしい思いをするくらいなら、待合室で引っこ抜いてやれとすら思っていた。 だから、一旦ここは看護婦すら欺くしかない。 覚悟を決め先ほどの第2待合室に戻る。 あの10人くらいしか入らない狭い待合室だ。

 

カーテンを開け待合室に入るとき、待っている人達に診られないように持っていた本で顔を隠す。 椅子に座って隠した本の上からそっと周囲を見渡す。

 

そこに座っている10人全員が鼻からプラスチックを出していた。

 

私は隠していた本をそっと置き、どうどうと座りなおした。

 

みんながやってたら全然恥ずかしくないやん。とちょっと大人になった気がした。 誰からも笑われないもんな。

 

『サトル~、どうやった~』

 

母親が様子を見に待合室へ入って来た。

 

『ぶわはっはっは! あんたなんねそれ! 鼻の穴から、きゃっきゃっきゃ。』

 

母親はそこにいる全員から白い目で見られた。

 

モウ、カンシャシナイ

 

合掌



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小倉のマツエクサロンミック【Mic】
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