439発目 AとBの話。


AとB



あれ?proof って何て意味だっけ?とふと頭によぎった。 答えは『証明』だ。 外資系の企業の方とのメールのやり取りで『evidence』という単語を調べたときによぎった。 evidence をカタカナでエビデンスって書いてこられたので、なんじゃこれ?と思ったんだ。 私は言葉の意味を調べるときにネットで検索はしない。 必ず辞書を引く。 なぜか? 理由は特にない。単純に辞書で調べるほうが好きだからだ。 だがその時は辞書がなかった。だから仕方なく 検索した。 検索窓に『evidence』と入力した。 相手がカタカナで書いてきたもんだからスペルが分からなかったが、勘で書いてみたら正解だった。 意味のところをみると 証憑(しょうひょう)や証拠、根拠、そして証明とあった。 あれ?証明ってproofじゃなかったっけ? proofって何て意味だっけ?と思い至った。 化粧品のコマーシャルで『ウォータープルーフ!』とかやってたから、違う意味か?と思いながら こういう時、辞書なら類似の単語として表記されるのにネットだと調べた単語した出てこないなぁ、不便だなぁ、と思ったんだ。

まあ、結果としてどちらも証明という意味があることが分かったが、実際には日本語の証明に近いのはproofのようだ。

そして証明という単語を調べていたもんだから照明の事を思い出してしまった。

あれは確か奥様が息子を妊娠して入院していたときだから平成19年、つまり今から8年も前のことだ。

 

当時の私は福岡市南区の大橋という所のアパートに住んでいた。3DKをリフォームして2LDK に変更した間取りで、リビングに隣接する和室を寝室にしていた。寝室の襖をばばあんと開けるとリビングと一体になって広々と使えるところが気に入っていた。そのためベッドではなく布団を敷いて寝ていた。傍らにはベビーベッドも用意していた。奥様が入院中に私にはやるべきことがあった。それはリビングと寝室の照明器具を新調することだった。

私は真っ暗にしないと寝れないデリケートな性格の持ち主だ。しかも鳥目だから暗闇だと何も見えない。それまでの照明器具は紐を引っ張ってつけたり消したりするタイプだった。だから電気を消してから布団に入るまでが手探りで、それが非常に面倒だと感じていた。 ましてや今から生まれたての子供がやってくる。暗闇でうっかり踏んずけたりするとまずいから新しい照明器具を買おうとなったのだ。郊外の家電量販店に行くとリモコンでスイッチの入り切りが出来るタイプの照明器具が売っていたのでそれを購入することにした。

無事に取り付けも終わり安心したところだった。リモコンの具合も確認した。 よしよし、コレは便利だぞとにやけていたかもしれない。

さあ、寝るぞという段階で事件は起きた。 リビングの電気をつけたままリモコンで寝室の電気をつける。同じ商品を二つ買ったからか寝室の電気はついたのだがリビングの電気が消えた。

まあいい。 どうせ消すのだから。 と布団に入った。 右手に握り締めたリモコンで寝室の電気を消す。 そしたらリビングの電気がつく。 え~いくそ。 今度は布団を出てリビングの照明の真下に行き照明器具のすぐ近くでリモコンを操作する。 今度はリビングの照明だけが消えた。ところが寝室の照明が消えているので真っ暗になった。

ちっ。

暗闇に私一人の舌打ちが鳴り響く。

もう一度リビングの電気をつける。その上で寝室に移動し照明器具にリモコンを近づけ寝室の電気をつける。 うまくいった。 これで両方がついていることになる。 またリビングに移動しリモコンを照明器具に近づけスイッチを切る。よしよしこれで寝室だけがついている状態になった。 リビングの電気が作動したら嫌なので襖を閉めた。 布団に入る。リモコンで寝室の電気を消す。

 

パパパパパ。

 

襖の隙間から光が漏れている。 くっそう。またリビングがつきやがった。

 

ため息を漏らしながら考えた。 両方つけたまま布団に入り一気に二つとも消す。これしか方法がなさそうだ。 そして実行した。 そしたら今度は寝室だけが反応しリビングはついたままだった。

 

怒りの持って行き場を失った私は時計を見た。12時を過ぎている。早く寝なきゃ明日は朝から会議だ。 だがこんなことを繰り返しているうちにすっかり眠気がなくなっていた。

リビングをつける。布団に入る。リモコンを操作する。寝室を消す。またリビングがつく。リビングを消す。寝室がつく。こんなことを何回繰り返しただろうか?

とうとうリモコンの電池が切れてしまった。

私の怒りは頂点に達した。 結局、リビングの照明カバーを外し電灯を外した。その上で寝室に移動しリモコンで消す。ようやく暗闇が訪れ私は眠りにつくことが出来た。時間は深夜2時。

寝不足のまま会社に行き、業務をこなす。昼休みにメーカーのお客様相談室に電話をした。

お前のところの照明器具はリモコンであっちもこっちも反応するから便利なようで逆に不便じゃないか!、という内容のクレームを入れた。 お客様相談室の男性はいたって冷静に対応してくれた。 もう一度、状況を説明してくれ、と。

私は昨晩の照明器具との格闘を詳細に説明した。途中で舌打ちしたところも明確に表現した。相手がどう思ったかは不明だが、そのときの情景が目に浮かぶんじゃないかというくらい詳細に説明した。 担当の男性は私にこう言った。

『お客様、詳細なご説明をありがとうございます。』

そうやろ?目に浮かぶやろ?

『はい。お客様、そのような症状を私どもはあらかじめ想定しておりまして、リモコンの裏側にAとBと切り替えできるようにしております。つまりどちらかをAに設定するとAのリモコンでしか作動しません。Bもそうです。』

『あ。そうなの?』

 

自宅に戻り、リモコンと説明書を見ると彼の説明どおりのことが記載されていた。

買うときに説明してよ。

 

ツカレタ

 

合掌

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*