火星に住むつもりかい?


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伊坂幸太郎の新作

”火星に住むつもりかい?”

は現実にはない世界を描いているが

なかなか風刺が効いている。

 

新政権による新たな法律で

『平和警察』が設立される。

 

街中の噂などで危険人物と

みなされた人々が次々と

平和警察に拘束され、尋問を

受けることになる。

 

これら平和警察の活動は

各都道府県を順繰り廻っていく

システムになっており、

物語は仙台が舞台になっている。

 

危険人物とはどうゆう人か?

 

これは中世ヨーロッパの

魔女狩りに似ている。

 

魔女狩りとは恐ろしい。

 

お前は魔女じゃないか?

と疑われた人は、

自白するまで拷問にあう。

 

拷問に耐え切れず、

自白してしまうと、絞首刑にあう。

 

万が一、自白しないとしても

拷問により惨殺されてしまう。

 

だからどちらに転んでも

死んでしまうのだ。

 

平和警察も同じで

危険人物をひっぱて来ては、

拷問し、自白させ、そして

公開処刑する。

 

そうすることでテロを

未然に防ぐというのが

建前で、実のところ

は魔女狩りと同じだ。

 

いわゆるスケープゴートなのだ。

 

仙台で平和警察に捕らえられた

人々の知り合いの中で、

どうしても納得がいかないという人が

立ち上がる。

 

誰かを助けることが正義なら、

全ての人を助けないと偽善になる。

と、妙な責任感から逃れようと

その正義の味方は、苦悩の末

ある共通点を持った人のみを

救おうとする。

 

 

正義の味方は一体、誰なのか?

 

物語の終盤までその正体は

明かされない。

 

私は伊坂小説のほとんどを

読んでいるが、今回の作品ほど

読後のきまずさはなかった。

 

うまく表現できないが

人の親切心や正義感が

根底から覆されるような

そんな気持ちになった。

 

とは言え、私自身が

正義とは程遠い生活をしている

から、うなずける部分もたくさんあるのだが。

 

結局のところ、

困っている人に手を差し伸べる行為は

偽善なのだろうか?

 

例えば、目の前で火災が起きている。

正義感から、建物内に残された人を

救出に向かう。

だが、全員は救えない。

 

救った人からは感謝されるが

救えなかった人々の遺族からは

恨み言を言われるだろう。

 

『何故、ウチの子を助けなかったのか?』と。

 

『あなたがやってることは偽善だ』と。

 

誰かを助けることで満足したいだけ

じゃないのか?

 

違うと言いたい。

 

全てを助けるのは無理なんだ。

 

だから目の前で困っている人を

一人でも多く助ける。

 

これの何が偽善だ?

 

おなかをすかした野良犬に

エサを与えるのが偽善なら

アフリカの恵まれない子供達に

毛布を送るのも偽善じゃないか?

 

そういう人間の奥深いところを

考えさせられる作品だった。

 

興味のある人は読んでみて欲しい。

 

そして手を差し伸べるべき相手が

誰なのかを思い浮かべて欲しい。

 

きっと、その人があなたが愛する人だから。

 

合掌

 

 

 

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