399発目 乾く話。


水とりぞうさん

苦情を受けることが多い

仕事をしている関係から

自分自身がクレームを

言う際に気をつけている

ことがある。

 

それは

腹を立てない

ということだ。

 

苦情を受け付けた相手も

こちらが丁寧な口調で

申し出れば迅速に

対応してくれるケースが

ままある。

 

しょせん人間同士だから

いくら仕事とはいえ

ぞんざいな口調の相手には

嫌な気分になる。

 

その点、ホテルマンは

一味違う。

 

こちらの態度がどうであれ

きちんとした対応をする。

 

先日の出張の際に

宿泊したホテルは

一般的なビジネスホテルで

高級ホテルというわけではない。

 

が、そこのホテルマンの

対応は一流と言って

良いだろう。

 

普段からクレームの際の口調に

気をつけている私が

ぞんざいな口調にならざるを得ない

ケースに遭遇した。

 

翌日に備え私は普段よりも

早めに就寝しようとした。

 

ふと、備え付けのカウンターを

見ると、足元に空気清浄機が

置いてあった。

 

なるほど。

 

より客室を快適に保とうとする

ホテル側の配慮だ。

 

私は操作パネルを確認した。

 

この機種は空気清浄だけでなく

加湿、除湿の機能も持っている。

 

寝ている間に乾燥すると

風邪を引く可能性がある。

 

私は加湿プラス空気清浄

のスイッチをONにした。

 

照明のスイッチを切り

布団を頭までかぶって

誰もいない部屋の天井に

向かっておやすみと

つぶやく。

 

ほどなく深い眠りに就いた。

 

だが息が苦しくなり目が覚めた。

 

ヘッドボードの時計を見ると

まだ夜中の3時だ。

 

部屋の中が乾燥している。

 

のどがカラカラだ。

 

私はあらかじめ購入しておいた

ミネラルウォーターを口に含み

のどを潤す。

 

おかしいな。

 

空気清浄機を確認する。

 

水のタンクには満水の

表示ランプがともっているし

機械も清浄に作動している。

 

どこか壊れてるのか?

 

私は深い眠りを邪魔された

ことで少しイライラしていた。

 

フロントに電話をする。

 

『空気清浄機がうまく作動して

ないようです。部屋の中が

乾燥して眠れません。』

 

分かってはいるけど

少しぞんざいな口調になった。

 

相手はそれでも静かに

対応してくれた。

 

『それではヤマシタ様。

係りのものがすぐに伺います。』

 

5分もせずに担当者が

部屋のドアをノックする。

 

私は担当者を部屋に招きいれ

少し不機嫌な態度で

もう一度説明した。

 

『これ、壊れとるんやない?

のどがカラカラになったよ。

音も静かだし。』

 

担当者は機械を見て

そして私に向き直り

深々と頭を下げ

 

『大変ご迷惑をおかけしました。

申し訳ありません。』

 

と謝罪した。

 

それでも私のイライラは

収まらず尚も担当者を

困らせる一言を発してしまった。

 

『ちゃんとしたやつと

取り替えてよ。』

 

沈痛な面持ちで担当者は

私に何かを言おうとした。

 

だが、私はその言葉をさえぎり

 

『いいから早くしてくれ。

明日は早いんだ。』

 

とこちらの都合を押し付けた。

 

彼は言いにくそうに、

そして心から申し訳なさそうに

もう一度私に頭を下げ

こう言った。

 

 

『ヤマシタ様。こちらの

ボタンをご覧ください。』

 

空気清浄機を指差す。

 

私は彼が指で示した部分を

覗き込んだ。

 

『除湿になっております。』

 

今度は私が頭を下げる番だった。

 

教訓

除湿をするとのどが渇く。

 

ア~ハズカシイ

 

合掌

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