316発目 街のクズ作戦の話。~脱出!~


星の屑作戦

大濠公園は福岡市の中心部に

位置する広大な敷地の公園で

その面積の大半は池が占めている。

 

休日はカップルが押し寄せ

ペダルボートを漕ぐ姿が

あちらこちらで見える。

 

いわゆるデートスポットだ。

 

ヤマシタとオオツカは

地下鉄の駅から上がって、

公園の入り口でミカを待った。

 

『で、本当に可愛いんか?その子。』

 

『うん、好みのタイプよ。

サトルちゃんも気に入るよきっと。』

 

『俺が気に入ってどうするんか!

お前の彼女候補やろ?』

 

しばらくは雑談をしながら

二人はミカを待ったが、

待ち合わせの時間を30分過ぎても

彼女は現れなかった。

 

『おい、俺、もう帰るぞ!』

 

ヤマシタは痺れを切らして

オオツカに八つ当たりした。

 

『あと10分、10分だけ待って!』

 

オオツカの懇願にヤマシタは

仕方ないなと言う顔でうなずく。

 

結局、約束の時間を1時間過ぎて

ミカはやってきた。

 

『ごめぇん、待った?』

 

オオツカに手を振りながら

やってきたミカにヤマシタは

カチンと来ていた。

 

『ああ、紹介するね。

大学の友達のサトルちゃん。

サトルちゃん、この子が話してた

ミカちゃん。』

 

『あ、どうも初めましてミカです。

サトルさんも背が大きいですね!』

 

ヤマシタは黙り込んだ。

普段は誰かが止めないとしゃべり続ける

ほどのおしゃべりなヤマシタが黙った。

 

オオツカとミカは不思議そうな顔で

ヤマシタを見る。

 

『どうした?なんかあった?』

 

ヤマシタは自分の記憶をたどっていた。

 

~この女、見たことある~

 

『いや、なんでもないよ

さ、行こう。ボート乗るんやろ?』

 

ヤマシタはその場を誤魔化し

ボート乗り場へ二人をいざなった。

 

ボート乗り場の横の小屋で

受付を済まし、桟橋へ向かう。

 

今回3人が選んだのは

手漕ぎボートだ。

 

係りの人がボートを抑えて

3人は揺れるボートに乗り込む。

 

ヤマシタは小さな声でオオツカに

『支えてやれ!』

と指示した。

 

オオツカはさりげなく手を差し出し

ミカがボートに乗り込むのを

手伝った。

 

ミカはありがとうと微笑んだ。

いい感じだ。

 

だが、ヤマシタは違うことを考えていた。

 

ヤマシタが考えていたのは二つだ。

 

一つはミカがそんなに可愛くない、

という事について。

 

もう一つはどこかで見たことが

あるという事について、だ。

 

ボートに乗り込み、二人を盛り上げようと

ヤマシタは話題を振った。

 

『バイトが休みのときは

何して過ごすん?』

 

『う~ん、大体、家でテレビ見るか

友達と電話で話してるか、かなあ?』

 

『彼氏はどれくらいおらんの?』

 

『え?あ、ああ。イナイ歴?

2~3年かな?』

 

『あ、結構なるね?オオツカは

20年も彼女おらんけど。』

 

『サトルちゃん、それは言わんでよ』

 

『どうせばれるっちゃ。

ねえ、ミカちゃん、オオツカのこと

どう思う?』

 

『え~?カッコいいと思うよ。』

 

『彼氏にしてもいいくらい?』

 

『いや、それはまだ、会ったばかりだし。』

 

『それもそうやね。じゃあ、今日は

オオツカのことをたくさん知ってもらおう。

オオツカもミカちゃんにどんどん質問して

ミカちゃんのことをもっと知れよ!

ミカちゃんは音楽はどんなのを聴く?』

 

『意外とロックが好きで、ヘビメタとか

聴くよ。タワレコには月に2回くらい行くし。』

 

ヤマシタの脳天に雷が落ちたような

衝撃が走った。

 

ヤマシタはタワーレコードには

週に2~3回くらいのペースで

通っていた。

つい先日も試聴コーナーで

お気に入りのバンドの最新盤を

聴いていた。

 

そのときに隣に来たカップルが

いちゃいちゃしていて

カチンときたヤマシタが

そのカップルに

『お前らいちゃつくなら家でやれ!』

と言ってしまった。

カップルはとても嫌そうな顔をして

店を出て行った。

ちっ!不細工な女と外で

いちゃつくんじゃねぇよ!

と悪態もついた。

 

 

その、”不細工な女”がミカだ!

 

ミカは気づいていない。

でも、はたと思った。

 

~こいつ、男おるのに・・・~

 

ヤマシタはオオツカが哀れになった。

と、同時に自分はいったい何を

やってるのだろうと虚無感に包まれた。

 

ああ、一刻も早くこの場から

脱出したい。

 

崩れ行く、宇宙要塞アバオアクーから

逃げ出すとき、アムロは道に迷ったが

すでに逃げ出していたカツ・レツ・キッカ

の3人にテレパシーで誘導してもらった。

 

でもヤマシタの逃げ道を誘導してくれる

人は誰もいない。

 

ヤマシタはただただガマンするしか

なかった。

 

公園でひとしきり遊んだあと

居酒屋で夕食を摂り、帰宅するまでの

記憶がヤマシタにはなかった。

ずっと上の空だった。

 

アパートに帰るとヒロシが

待っていた。

 

『どうやった?』

 

ヒロシは二人が座るのも待てずに

尋ねてきた。

 

『オオツカ座れ。

いいか、俺の忠告をよく聞け。

あの女はやめとけ。』

 

『ええ?なんで?』

 

『どしたんサトルちゃん、

オオツカ、うまく出来んやったん?』

 

『いや、俺はうまくやれたよ。

来週また会おうねって約束もしたし。』

 

ヤマシタは考えたがやはり

打ち明けることにした。

 

『あのな。ああ、その前に

まず、ミカやったっけ?あの子、

ひとっつも可愛くないやんか?

1時間も遅れてきたのにシレっと

しとったし。それにあいつ

彼氏おるぞ。』

 

『え~~~!』
『え~~~!』

 

『ヒロシ、お前にこないだ話した

やろ?タワレコでむかつくカップルを

叱り飛ばした話。』

 

『ああ、なんか試聴コーナーで

いちゃつきよったカップルやろ?』

 

『おお、それたい。

そん時の女がミカたい。』

 

『え~~~!』
『え~~~!』

 

『お前、ちゃんと聞いたや?

彼氏はいませんか?って。』

 

『いや、普通はおらんって

思うやろ?だけ、聞いてないよ!』

 

『いや、お前、あの子普通じゃないぞ。

試聴コーナーでいちゃつくんぞ!』

 

『なんかえらい試聴コーナーに

こだわるね。』

 

『神聖な試聴コーナーでいちゃつくのは

仏様の前で立ちションするのと

同じくらい罰当たりやろうもん。』

 

『いや、そのロジックは分からんけど

ホントに?見間違いじゃない?』

 

『いや、ホントや。不細工な女は

なかなか忘れんわ。』

 

『いや、ミカちゃんは可愛いやん。』

 

『お前がそう言うなら俺はもう

何も言わん。好きにせえ。』

 

結局、ヒロシもオオツカも

ヤマシタの見間違いだと言って

信じなかった。

 

数週間後、とうとうオオツカは

ミカに告白した。

 

結果はNGだった。

 

理由を聞くと、泣きそうな顔をして

『彼氏がおるんやって。』

とつぶやいた。

 

ほうら、見てみろ。

 

こうしてオオツカはその後も

二人連続して彼氏がおる子を

好きになり、二人ともから

撃沈される。

 

哀れなオオツカ。

 

君を哀戦士と呼ぼう。

 

オオツカ43歳。

 

イマダニ ドクシン

 

合掌

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