312発目 箱に入っている話。


ポテチ

【はこいりむすめ】「箱入り娘」
大事にしまって、めったに
人に見せないように外出も
させないほど大切に育てられた
娘のこと。

 

 

新入社員として入社してきた

その女の子はいわゆる

箱入り娘だったらしい。

 

世間知らずもここまでくると

大したもんだと思えるほど

だったとのこと。

 

その会社は今流行の

IT企業で、社長もまだ若い。

新進気鋭の企業で勢いも

あり、その年は新入社員を

5名雇用したそうだ。

 

箱入り娘はそのうちの一人で

社長の知り合いから懇願されて

コネ入社させた。

 

箱入り娘は東京の短大を

卒業してはいたが、幼稚園からの

エスカレーター式の学校で

登下校は送迎付き、部活も

やっておらず、ピアノと習字は

自宅に先生が来て習っていた。

 

箱入り娘の父親は資産家で

はっきり言って働かなくても

食っていけるだけのたくわえが

あるそうだ。

 

彼女も幼少の頃から送迎で

どこにでも行くため、タクシーにも

乗ったことがないどころか

電車や飛行機の乗り方も

しらない。

 

そのため、仕事も内勤を中心に

させていた。

 

新入社員の歓迎会で

居酒屋に行った時に

『こんな店は初めてだ』

と喜んでいたそうだ。

 

居酒屋に入ったときに

店員がコートを脱がしてくれると

思って入り口のところに

突っ立っていた。

 

見かねた社長が

『ここは自分で脱いで渡すんだよ』

と教えたところ驚いていた。

 

そんな世間知らずだから

仕事を任すのも冷や冷やだったらしいが

与えられた業務はそつなく

こなしていた。

 

もう一つの心配は

同僚との人間関係だったが

彼女の明るい性格と

周囲の理解でうまくやっていた。

 

元来の明るい性格で

周囲とも打ち解けていたある日、

教育担当でもある彼女の

先輩社員の女性が

箱入り娘にアドバイスをした。

 

 

『もう、あなたも立派な社会人

なんだから、そろそろ送迎は

やめて自分の足で出勤してきなさい。』

 

彼女は不安だったが両親に

相談し翌週からは自分で

電車を乗り継いで出社すると

宣言し、両親も承諾した。

 

彼女はかねてからあこがれて

いた寄り道が出来ると

わくわくしていたそうだ。

 

数日して昼食を食べていたときに

教育担当に箱入り娘がこう言った。

 

『先輩、私、昨日初めて

寄り道をして帰りました。』

 

『へえ、どこに行ったの?』

 

『帰りにちょっとお腹がすいたので

はしたないとは思ったんですが

スイーツを買いに行きました。

そこは店内で買ったものを

その場で食べられるシステムなんですぅ。

私うれしくなって3つも食べました。

両親には内緒です。』

 

『へえ、どうだった?おいしかった?』

 

『こんなにおいしい食べ物が

この世にあったなんて!と

思いました。

たぶん世界一じゃないかしら?』

 

教育担当は興味がわいた。

 

この大金持ちの娘が

世界一と言うスイーツが

どんなものなのか?

 

『先輩も一緒に行ってみませんか?』

 

『あいにく持ち合わせがないのよ。

また今度ね。』

 

『私、今日なら多少は余裕が

あります。先輩がお嫌じゃ

なければ私にご馳走させて

いただけませんか?』

 

教育担当は正直な気持ち

行ってみたくなった。

 

大金持ちが世界一という

スイーツはどんなものだろう?

私の今日の格好で入れるような

お店かしら?

 

後輩からおごってもらうのは

気が引けるけど行って見たいわ。

 

教育担当は社長に相談した。

 

社長は彼女の成長のためだから

是非、行ってやりなさい。

費用は私がほら。

 

と、教育担当に5万円を渡した。

 

教育担当は5万円で足りるかしら?

と不安にはなったが最悪カードで

払って会社に請求しようと

腹をくくった。

 

終業後、更衣室で着替えを済ませ

箱入り娘の案内で目的の

お店へと向かう。

 

彼女はタクシーに乗ろうとしたが

場所を聞くと近所だったので

歩いていくことにした。

 

道中では仕事のことや

恋愛のことなどを話した。

 

10分ほど歩いたところで

彼女がココですと指差した先には

ミスタードーナツがあった。

 

教育担当は驚きで腰が抜けそうに

なったそうだ。

 

『ここなら私がおごってあげる』

 

ようやく発した言葉に

むなしさを覚えたそうだ。

 

翌日、社長室に行き

5万円を返した。

 

社長は怪訝そうな顔をして

『ちゃんと連れて行かなかったのか?』

と教育担当を叱責した。

 

違うんです。

 

彼女は説明をした。

 

社長は大笑いしたが

5万円は迷惑料だ、取っておきなさい。

と受け取らなかった。

 

その事件の後は社内でも

その話が評判になり

外回りの営業はことあるごとに

 

『さあ、世界一のドーナツだよ』

 

とお土産を買ってきてくれるようになった。

 

今、彼女が夢中になっているのは

世界一おいしいジャガイモ料理だそうだ。

 

料理の名前を聞いたら

ポテトチップス

だったらしい。

 

教育担当はその日、実家に電話し

お父さんにこう言った。

 

『お父さん、私お父さんの

子供で生まれて本当に良かった。

お金持ちじゃなくてありがとう。』

 

父親は電話の向こうで

『褒められたのかけなされたのか

ようわからんな』

とつぶやいたそうだ。

 

 

カネモチノナヤミ

 

合掌

 

 

“312発目 箱に入っている話。” への2件の返信

  1. はじめまして。
    札幌在住のhoneyjapanと申します。
    ブログ村を散歩していたところ「札幌情報」というカテゴリーを見つけ、一発目に読んだブログでした。
    感想は…
    「めっちゃ面白いwww」
    とくに311発目なんてニヤニヤが止まりません!!
    まるで小説を読んでいるような感じです。
    さかのぼって全部読もうかと思います。
    また遊びに来ますね~。
    クリンクリンしておきます。

    • 大変ありがたいお言葉を頂戴しまして
      誠にありがとうございます。

      とても励みになります。

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      記載してますのでそちらもご利用ください。

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