311発目 礼を言う話。


礼を言う

『・・・と言うことで、今だと

大変お得です。』

 

遅い昼食を摂ろうと

ファミリーレストランに入った。

 

隣のテーブルで若い男女が

向かい合っている。

 

会話の内容からすると

女性のほうが男性に

何かをセールスしているようだ。

 

私は食後のコーヒーを飲みながら

事の顛末を見守った。

 

私の位置からだと左前方に

男性が座っている。

 

私の左隣が女性なので

女性の横顔と右肩しか

見えないのが残念だ。

 

男性の顔を見る。

 

気の弱そうな顔をしている。

そうだな、年齢は恐らく

30代後半だな。

 

よれよれのスーツを着ていて

革靴は擦り切れている。

 

私のプロファイリングによると

彼は外回りの営業マンだ。

それも成績は良くないだろう。

 

テーブルの上に置いた左手の

袖口には汚れが付いている。

腕時計は安っぽいものだ。

 

椅子の脇に置いた鞄は

形が崩れていて自立してない。

 

一方、ハキハキと軽快に

しゃべる隣の女性は

成績の良いセールスウーマンだな。

 

言葉の一つ一つが

しっかりと発音されていて

自信に満ち溢れている感じだ。

 

もう少し二人の会話に

耳を傾けてみた。

 

『ノムラさんがお友達にこの商品を

紹介して下さったら紹介料として

商品価格の20%がノムラさんに

振り込まれます。ただし、商品は

10個単位で最初にご購入いただきます。

1個1万円ですがお友達に販売するときは

1万2千円で販売していただきます。

そうすれば2千円がノムラさんの

取り分となります。』

 

おい!

ネズミ講じゃねえか。

そもそも12,000円のうちの

2,000円なら20%じゃねえぞ!

16.67%だぞ!

 

兄ちゃん、だまされるな!

 

ふと、男性の顔を見ると

チラチラと女性の胸元を

覗き込んでいた。

 

さりげなく私も女性の胸元を

見てみる。

 

確かにブラウスの第4ボタンくらいまで

を開け放ち、その隙間から

ふくよかな白い胸のふくらみが

見え隠れしている。

 

・・・・おっぱいにやられとる・・・・

 

私は直感した。

 

この男は確実にだまされる。

この女性に、いや、

この放り出されたおっぱいに。

 

私には関係のないことだからと、

伝票を手にし、会計に向かおうとした。

 

でもやっぱりかわいそうなので

一言、言ってやろうと振り向いた。

 

ちょうど男性の真後ろに立って

振り返ったので女性の

開いた胸元が、まともに

視界に飛び込んできた。

 

一瞬、言葉につまる。

 

女性が私に気づいて

顔を上げた。

 

『何か?』

 

その言葉に男性も私に気づき

振り返った。

 

 

私はまだ彼女の胸元を

見ていた。

 

『いえ、なんでもありません』

 

とようやく搾り出すように

言葉を吐いた私は、

あまりにも見事な胸のふくらみと

谷間と色の白さに

朦朧としていた。

 

心の中でそっと

 

『ありがとう。おっぱい』

 

とつぶやいた。

 

店を出ると秋の空が

いつもより高く見えた。

 

さ、仕事するか。

 

オッパイバンザイ

 

合掌

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