307発目 ノリノリの話。


ヲタ芸

空港からの帰り道はいつも

札幌まで行かずに新札幌で

地下鉄に乗り換える。

 

夜の10時を過ぎてるからか

人は少ない。

 

向かい側には女性が二人

座っていた。

 

ふと、気づくと大柄な男性が

向かいの女性の前に立っていた。

 

女性は二人ともうつむいている。

 

私は彼の背中を見て

そしてズボンを見て靴を見た。

 

あまりファッションに気遣わない

人なんだなぁと、

ぼんやり思った。

 

髪の毛も脂ぎっていて

不潔感に包まれた男性だ。

 

ヘッドフォンをしている。

 

こちらまで音が漏れてはこないが

不潔な男が聞くくらいなら

大した音楽じゃないな。

いや、それは偏見か?

 

男は音楽に合わせてなのか、

右手の指をパチンパチンと

鳴らし始めた。

 

気になった。

 

ヘッドフォンから音が漏れるより

パチンパチンが気になった。

 

ふと見ると向かいに座る女性も

嫌そうな顔をしている。

 

男はそのうち頭と腰をくねくねと

くゆらせ始めた。

 

とても気色悪い。

 

向かって左側の女性が

ちらっと男の顔を見上げ

それからまるで気味の悪い虫でも

見るような顔をした。

 

向かって右側の女性は

男の顔と腰を交互に見て

そしてやはり苦い物でも噛んだような

顔をした。

 

くねくねパチンパチン。

 

気になる。

 

だんだん腹が立ってきた。

 

やがてパチンパチンの部分が

終わったのか、頭くるんくるんに

変わった。

 

電車のアナウンスが次の駅の名前を

告げた。

私の降りる駅だ。

ああ、この不快な状態から

解放されるんだ、と思ったら

うれしくなったが、逆に

この結末が見れなくなるのが

少し残念だ。

 

女性二人には悪いが

私は、お先に失礼するよ。

 

アナウンスが次の駅は

私が座っている方のドアが開きますよと

告げている。

駅のホームが見えてきた。

 

男がこちらを振り返った。

 

なんだ、お前もここで降りるのか。

 

女性二人は心底ほっとした顔をした。

 

男の顔を見た。

一度見たくらいじゃ覚えられない

平凡な顔をしていた。

 

次に腰を見た。

 

チャックが全開だった。

 

ソリャア、イヤダロウネ

 

合掌

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