305発目 街頭演説の話。


GOGOSTALIN

地下鉄から階段を上がり

地上へと出る。

突風が吹き込んできて

階段を上がる女性は

一様にスカートを抑える。

 

女子高生が年配の女性に

ぶつかった。

年配の女性はスカートを

両手で押さえており

はずみで肩にかけたトートバックを

道路に落とした。

 

女子高生は気づくか気づかない

くらいの小さな会釈をし

その場を立ち去ろうとした。

 

『ちょっと!』

 

年配の女性はその女子高生の

左肩を掴んだ。

 

『あなた、ぶつかってきて

何も言わずに行こうとするの?』

 

眉間に皺を寄せ、かなり

ご立腹の様子だ。

 

大人気ない。

 

周囲に緊張感が走る。

 

赤信号で立ち止まってる

人々は固唾を呑んで

女子高生の行く末を心配した。

 

消え入るような声で

『すみません』

と言った彼女に

尚も怒りの収まらない女性は

『いったい、どんなしつけを

受けて育ったのよ!

親の顔が見たいわよ!』

と罵声を浴びせた。

 

こんな公衆の往来で

年端も行かない女の子を

怒鳴りつけるあなたの親の顔

の方が見てみたいですよ。

と、心の中で思う。

 

『ねえ、あなたもそう思うでしょ?』

 

年配の女性は突然私に話しかけてきた。

 

戸惑う私と女子高生。

 

『ねえ、どうなのよ?』

 

今度は私に詰め寄りだした。

 

『まあ、謝ってるし、わざとじゃ

ないでしょうから、そのへんで。。』

 

私は言葉を濁した。

 

『こんな子がいるから

日本の将来が心配なのよ!』

 

この女性は一体どんな立場で

コメントしているのだろう。

 

あきれて私はその場を

去ろうとしたが女性は

それを許さなかった。

 

『なんとか言いなさいよ!』

 

私は何も悪くないと思うが

どうやら怒りの矛先は私に

向けられたようだ。

 

私はそっと深呼吸し

この場を納める方法を考えた。

女子高生はうつむいて

今にも泣き出しそうだ。

 

『そんなに怒ると美しい

顔が台無しですよ。』

 

ためしに言ってみた。

 

われながら臭いセリフだ。

 

年配の女性は顔を赤らめ

『まあ、今日のところは

これでいいわよ。

あなたも気をつけなさい』

と怒りを納めた。

 

ああ、正解だったんだ。

 

交差点では街頭演説をしている

どこかの共産主義者のような

政治家かどうかも分からない人が

小さな拍手をしていた。

 

その拍手は日本の未来を

心配した女性に対してか

女子高生を助けた私に対してかは

分からなかった。

 

アサカラツカレタ

 

合掌

 

 

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