298発目 生き物の寿命の話。


犬と金魚

その友人は親に頼み事を

したそうだ。

 

いつかこうゆう日が来ると思って

普段からおねだりの類はせずに

親の言いつけや忠告を守り

文字通り”忠実”に過ごしてきた。

 

ところが彼の目論見とは裏腹に

彼の母親はその申し出を断った。

父親に関しては頭ごなしに

否定してきたらしい。

 

彼は心底、悔しそうだった。

 

当時、私たちは中学3年生だった。

 

私の家にはアスカという名の

メス犬がいた。

誕生日が私と同じで、

雑種の暴れん坊だった。

 

私は朝と晩の散歩を率先してやっていて

それが苦だと思うこともなかった。

可愛くて仕方なかったし、

言葉にできないがきっと犬の方も

私の事を好きで好きでしょうがなかったはずだ。

 

友人は私のそんな話を聞いて

ぜひ、犬を飼ってみたいと

常々思っていたそうだ。

 

ある日、近所のおじさんから

自分ちの犬が子供を産んで

困っている。貰い手はないか?

と尋ねられたので、チャンスだと

思ったそうだ。

 

帰宅した彼はさっそく両親に

相談を持ち掛けた。

彼がすべてを説明し終わらないうちに

まずは母親がだめだと言い、

次いで父親がやはりだめだと言い

『いや、でも・・』と言う彼の二の句を

静止してまで

 

『ダメなものはダメだ!』

 

と言い放ったそうだ。

 

我々が子供のころは

大人の、この手の不条理な

説明ともつかないようなロジックに

してやられた。

 

『あれを買ってほしい。

みんなが持っている。』

『そしたら、お前はみんなが

死んだら死ぬんか?』

 

大人になって落ち着いて考えたら

皆が死ぬ状態だった俺も死んでるな。

ということは容易に分かるのだが

その時には気づかない。

 

『ダメなものはダメだ。

死んだおじいちゃんの代から

ダメと決まっている。』

 

もう、ここまで来ると

それ以上の詳細の説明を受ける気すら

無くなってくる。

 

私の友人は尚も食い下がり

何故ダメなのか納得のいく説明を

求めた。

 

彼の両親曰く、こうだ。

 

『いいか?生き物は必ず死ぬ。

お前はまだ15歳だから、分からない

だろうが、お父さんやお母さんよりは

生き物の方が先に死ぬ。

お父さんもお母さんも、誰かが

死んでいくのを見るのはつらいんだ。

お前にもそんな悲しい思いは

させたくない。分かって欲しい。』

 

これには彼も納得しそうになったそうだ。

しかし、彼も負けてはいられない。

 

『じゃあ、先日の祇園祭の時に

何故?金魚を取ってきたんだ?』

 

彼のお父さんは悲しそうな

顔をしてこう言ったそうだ。

 

『金魚は俺たちの中では

生き物ではない。』

 

そんな馬鹿な・・・・

 

友人は呆れてそれ以上の言葉が

出てこなかったそうだ。

 

昨年の末に彼のお母さんに

久しぶりに会った。

 

『あら、サトル君。元気?』

 

『元気ですよ、おじさんは

元気ですか?』

 

『あの人は一昨年亡くなったのよ。』

 

『それは失礼しました。』

 

どうやら友人の父親はすでに

他界していたようだ。

友人の近況やおじさんの昔話を

しているうちにあの時の犬と金魚の話になった。

 

『サトル君が飼ってるからって

あの子ったらムキになってねぇ。

でも、結局犬なんて飼わなくて

良かったわよ。』

 

『どうしてですか?』

 

『だって、あの時の金魚、

まだ生きてるもん。』

 

え?

 

・・・・・・っえ?

 

だってあれから・・・・・

28年経ってるというのに?

縁日で掬った金魚が?

 

おじさんの方が先に死んだの?

 

『サトル君。あれは掬ったというよりは

もはや救ったという方が正しいわね。』

 

私は驚きが隠せなかった。

金魚ってそんなに長生きするの?

 

ホントカヨ?

 

合掌

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