30発目 労いと嘲笑の違いの話。


舞台IMG_1606

2012.04.30

若いからというのが理由にはならない。
今から15年以上前の話だ。
仕事もそこそこ出来だすと天狗になる。

埼玉県に狭山市という小さな町がある。
小倉出身の私から見ても田舎町である。
当時、建築の営業をしていた私に、
ひと組の老夫婦が声をかけてきた。
聞くと、自宅を建て替えようと思っているそうだ。

断る理由はない。
ましてや人の良さそうな二人だ。
私はニヤリと笑い、
私に任せておけば大丈夫と
自分で自分に太鼓判を押した。

何度か打ち合わせを重ね、
契約までもう一息だなと
思っていたある日。

途中経過の図面を渡すため
昼間に彼らの自宅を訪れた。
ご主人は仕事に行っているらしく不在で、
私は奥様一人の家に通された。

いいのか?年の差はあるとはいえ、
男と女だ。
まずいことになりはしないか?

とはならない。仕事だから。

品の良い奥さまは品の良いカップアンドソーサーに
これまた品の良さそうな紅茶を入れ私をもてなした。

ところでと切り出す奥様。
あなたは、どこの出身?
ずっと気になっていたそうだ。
ずいぶんきつい方言をしゃべるなぁと。

私は小倉といってもわかるまい。
と勝手にあきらめ

『ええ。福岡の北九州市出身です』

と言った。

品の良い奥さまはさらに品の良い声でさらりと
こう言ってのけた。

『まあぁ、田舎から出てきて大変ね』

私は飲みかけの紅茶をそっとテーブルに戻した。

北九州市は当時100万人の人口をかかえる
政令指定都市だ。
それを空港もない、新幹線も止まらない、
そんな町に住むあなたに
『田舎だなんて言われたくない』

今考えると恥ずかしいが
私は当時そう思ってしまったのだ。
若かったんだ。
いや天狗になっていたんだ。

きっと奥さまは労ってくれたんだ。
親から、友達から離れて頑張ってるのね・・と。
それを私は勝手に嘲笑と思ったんだ。

もし、もう一度あの老夫婦に会えるなら
謝罪しよう。労いと嘲笑の違いが分からなかった若者に
家を建て替えることを任せていただき
本当にありがとうございました、と。

きっとあの奥さまは品の良い笑顔で
こういってくれるだろう。

『そんなことより紅茶を飲みなさい。冷めるわよ』

オホホホホホ

合掌

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