250発目 西の空と敗北の話。


ライナーノーツ

目が合ったとか肩がぶつかったとか

くだらない理由で殴りあったり

仲間を呼んできてどちらが強いか

とかを競ったりするのは

高校生までだ。

 

私はこう見えて暴力が嫌いだ。

乱暴な人はもっと嫌いだ。

だから乱暴そうな人や怖い人を

見ると嫌悪感が顔に出るため

『なんやきさん!』

と絡まれることも多い。

 

その日も歩いている私に

正面から自転車に乗って

やって来た男が因縁をつけてきた。

 

『なん見ようとや?』

 

そんな奇抜な髪型でしかも

そんなに足を広げて運転してたら

珍しいから見られて当然でしょ?

と思ったが口には出さず、

『いえ、見てませんよ』

と答えた。

 

だが彼はその回答が

気に入らなかったんだろう。

ちょっとこっちへ来いと

人気の無い裏路地に

連れて行こうとした。

 

ああ、これは恐らく少なくとも

顔を何発か叩かれるな、と

予測した私は走って逃げた。

 

足の速さには自信があった。

 

走りながら振り返ると

先ほどの彼との差はずいぶん

開いていた。

このまま逃げ切るんだサトル!

そう心の中でつぶやきながら

懸命に走った。

 

もう一度振り返る。

 

彼は走って追いかけてきていて

私との差は見る見る縮んでいった。

なぜ自転車に乗ってこないのか?

と疑問に思ったがそんなことには

構ってられない。

 

やばい。追いつかれる。

 

そう思った刹那、

彼は私の横をとても素敵なフォームで

走り過ぎながら叫んだ。

 

『俺の方が早い~!』

 

えっ?

 

私はただ呆然と彼の後姿を

見送った。

そのまま彼は見えなくなった。

 

なぜだかちょっぴり

敗北感に包まれた。

 

見上げると春の太陽が

西の空に沈んでいくところだった。

 

ナンダッタンダロウ?

 

合掌

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