242発目 誰だお前という話。~謎が深まる~


ライナーノーツ
ユイの友達のエリと3人で会うことに

したオワリは、約束の時間より

少し早く待ち合わせ場所に

到着した。

二人を待つ間、作戦を練る。

普段使わない頭をフル回転

させていると、コーヒーの味も

分からないなと苦笑する。

 

考えがまとまらないまま、

二人がやってきた。

こうして並べてみると

エリが横にいるせいか、

ユイの美しさが一層際立つ。

 

不動産の用語で『コロシ』と

言うものがある。

わざと悪い物件、条件に少し合わない

物件を見せた後に、決めたい物件を

見せる。

このテクニックを使用するときに

最初に見せる悪い物件のことを

コロシという。

要は決めたい物件がよりよく見えるための

錯覚を利用した手法だ。

 

今のユイの横に立つエリは

まさにコロシだった。

 

でもな、と考え直す。

素性の知れない美人よりも

身元のはっきりしたブスの方が

かわいいかもな、と。

 

結局考えのまとまらないまま、

オワリはエリに対して直球を

放ることにした。

『コバヤシさんは、ムライさんに

実家暮らしって言ってたでしょ?

でも今住んでるところは

単身で入居してるんじゃないですか?』

『あれ?もうばれました?

実は一人暮らしって言うと

ヤバイかなと思って、嘘ついちゃいました。』

『え~!でもさユイの方から

そのムライさんって人を気に入ってるんでしょ?

だったらいいじゃん。教えても』

 

コロシ物件がナイスフォローを

してくれてる。

 

『コバヤシさんは元々は

福岡出身なんですか?

ムライさんと同じ小学校だったん

でしょ?』

『父親の転勤でアチコチ。

小3から中1の1学期まで

福岡の北九州だったの。

で、高校卒業まで博多にいて

その後は、短大に進学して

東京の練馬に住んでた。

就職して1年くらいで辞めて

バイトしてたんだけど

デザインの会社で一緒だった人が

独立するときに手伝ってくれないか

ってことで札幌に来たの。』

『へー、そうだったんだ。

それが3年前?じゃそこもすぐ辞めて

うちに来たの?』

『そうなんだ、来て3ヶ月くらいで

その人と喧嘩して辞めちゃった。

そのときたまたま求人で見つけたのが

今の会社。』

オワリはすべての裏づけを

取りながら黙って聞いていた。

今のところ嘘はない。

 

ゴールデンウィークを使って

ムライは名古屋に来ていた。

小学校6年生のときに

転校したヒロモリに会うためだ。

彼が転校してからも手紙のやり取りなどで

付き合いは続いていた。

会うのは5年ぶりだ。

栄町の居酒屋でヒロモリと

飲みながら昔話をしていた。

『おれさ、最近すっげぇ美人に

告白されたんだよね。

生まれて初めてだったから

超うれしかったんだ。

俺は覚えてないけど

小中と一緒だったらしいんだよ、

その子。』

『なんて名前?

ってゆうか、ムライさ、

小4のときにバレンタインで

チョコもらったって言ってたよね?

好きですって手紙が入ってたって。

だから初めてじゃないジャン。』

『えー?覚えてないな。

誰だろ?』

『確かすっげぇ太ってて

すっぱいにおいのする子。

家が貧乏でお風呂に入ってないような

ヤツでさ、コバヤシ菌とか言って

いじめられてた子だよ。

みんなが、あんなに貧乏なのに

チョコなんか買えるはずはない、

拾ってきたチョコだって馬鹿にして

だから、ムライその後、その子を

避けるようにしてさ。』

そういえば、思い当たる節はある。

ん?コバヤシ菌?

『え?コバヤシ菌って下の名前

なんだったっけ?』

『いや、そこまでは覚えてない。』

『いや、俺が告白された子も

コバヤシっていうんだ。

下の名前はユイ。

同級にもう一人いたっけコバヤシ?』

『ああ、そうだユイだ。

確かそんな名前だったよ。』

 

思い出した。そういえば

そういう子がいた。

ウチの親もあの子はネグレクトじゃ

ないか?って言ってた。

風呂にも入れさせてもらえず、

いつも顔にあざを作ってて

脂ぎった髪の毛で顔を隠すように

してた子だ。

整形したのか?あのコバヤシユイと

同一人物とは思えない。

 

『どうしたそわそわして。』

『いや、駄目だ。気になってきた。

わりいけど明日札幌に帰るわ。

また、夏休みに来るよ。』

『どうしたんだよ!今日は飲もうぜ。

夏には俺のほうが札幌に行くからさ。』

『いや、コバヤシユイのことが

気になって確かめたいんだ。

なんかイライラしてきた。』

『そんなに惚れてんのかよ!

しょうがねえな。

じゃ、ここはお前のおごりな。』

 

ムライは挨拶もそこそこに

その場を後にし、宿泊先の

ホテルに戻った。

そして今話した内容を

オワリにメールした。

明日の夜、会おうと。

 

何が狙いなのか?
ツヅク

合掌

 

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