225発目 事実は小説より奇なりの話。


ライナーノーツ
狭い歩道橋を渡っていた。

その日は仕事も休みで

かといって一緒に過ごす友人は

誰も都合がつかない。そんな寂しい休日だった。

 

ふと正面から4人の女性が歩いてきた。

私の進行方向から歩道橋いっぱいに

広がって歩いてきた。

 

ああ、嫌だな、邪魔だな。

そう思ったんだが、4人のうちの一人が

スッと脇に避けた。

 

それに気づいた他の3人も

スッと脇に避けた。二人ずつ左右に。

私は気恥ずかしいので顔を下げて

会釈とも中腰ともつかない

格好で女性4人の列をくぐるように

すり抜けようとした。

 

女性のうちの一人がひときわ大きな声で

『サトルくん!』

と言った。

振り返るとその女性が

『久しぶり』と腰のところで

手を振っている。

 

『何でこんなところで会うんだろう?

東京へはいつから来てるの?』

 

私は正直に答える。

『23の時だから、もう丸3年だね。』

『そっか。結婚は?』

『してる』

『え~、そうなんだ。子供は?』

『いない』

『・・・・・』

 

それ以上、質問は無いと判断した私は、

じゃあ、と右手を上げた。

 

彼女は先ほどよりもやや高い位置で

私と同じように右手を上げた。

 

私はくるりと彼女に背を向け

歩き出そうとした。

 

話しかけてきた彼女の友人の一人が

ねえ、今の人 誰?と聞いた。

彼女は『元彼』と答えた。

 

元彼。この言葉は辞書を引かなくとも

知っている。

言葉は知っている。

知っているのは言葉だけだ。

 

人はあまりにも驚いたときって

少し、ほんの少しだがオシッコが出るんだな。

 

私は彼女の事を一切知らないと思ってる。

本当に街ですれ違っただけの女だと

思っている。元彼?はあ?

名前も顔も知らねぇよ。

いや、でも『サトル君』って言ってたな。

知り合いか?いやいや、元彼?

ええええ?

なんだよ。驚かすなよ。

パンツが濡れたじゃないかぁ。

誰だよお前!

 

こんな事って

アルンデスネ

合掌

 

 

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