224発目 口の悪い男の話。2


ライナーノーツ
タイガージェットシンと上田馬の介、

それにキラーカーンを加えた3人は

僕らの子供の頃のプロレス界で

悪役として活躍した3人組だ。

カンはウエダ君とシン君と

いつも一緒にいたので

キラーカーンからとってカンという

あだ名になった。

得意技はもちろんモンゴリアンチョップ。

ケンカっぱやかったが

弱かった。

 

17歳のときのことだ。

ボクと友達3人はカンの家にいた。

おなかが空いたので

ハンバーガーショップに電話し

出前を頼むことになった。

カンは『ただで食べる方法がある』

と皆を驚かした。

一体、どんな方法だ?

やばい方法だろ?

 

 

まあ、見てろって。と

受話器を上げる。

 

『ああ、徳吉のカンやけどの。

出前頼むわ。

おう、チーズバーガーを56個

照り焼きバーガーを28個

スプライトを17個

チキンナゲットを87個。

何分で持ってこれるや?

は?1時間?

つまらん(*注1)!! 30分で持って来い!』

ガチャン。

 

カンはしたり顔で説明を続けた。

 

『これで、持ってきた時に

数が違うっちゅうて、ごねまくって

ただにさせるんよ。

近所のにいちゃんから教えてもらった

方法なんよ。』

『近所のにいちゃんっちゃ誰か?』

『タツミよ。』

 

ボクはもちろん、そこにいた誰もが

「タツミの言うことはあてにならん

しかも、そんな方法はうまく行かない」

と心でつぶやいた。

アホやな、カン。

 

30分しても届かないので

カンはもう一度電話した。

『こらあ、30分過ぎたぞ!

まだか! は? 今出た?

何を蕎麦屋みたいな言い訳

しよるんか~!

よっしゃ、ほんなら待っとくぞ!』

 

それからさらに30分が経過した。

いよいよ本気でいらいらしだした

カンはもう一度電話をかけようとした。

 

ピンポーン。

 

受話器を上げると同時に

玄関のベルが鳴る。

カンはしめしめと玄関を開ける。

我々は部屋の中から

やり取りに聞き耳を立てる。

『あ、いえ、ボクですが。

出前?頼みました。

え?何かの間違いじゃないですか?

え、もちろん払いますよ。

おいくらですか?

え?67,800円!

あ~、そんなにしますか。

キャンセルは?ああ、無理ですよね』

 

なんだか様子がおかしい。

ボクらは一旦庭に出て

玄関の方に様子をこっそり見に行った。

 

玄関にはバーガーショップの店員と

制服を着たおまわりさんが立っていた。

やり取りは店員としているようだが

後ろからおまわりさんが睨みを

利かしている。

ボクらがいつも怒られていた

オカジマという巡査部長だ!

 

最後にオカジマ巡査部長が

『こら、カン、お前最初から

払う気、なかったやろうが。

このやり方、誰に聞いたんか?

タツミやろうが!』 と言った。

 

さすがオカジマ巡査部長。

すべてお見通しだったのか。

 

ボクらは巻き添えを食わないように

そっと、カンの家をあとにした。

 

しばらくはボクらは無言で歩いていた。

前からチンピラが歩いてくる。

タツミだ。

一緒にいた奴がタツミに話しかけた。

『タツミ、カンに変なこと吹き込んだろ?』

 

『お前らやったんか?

あんな方法、信じる方がバカやろ!

オレはあれやってオカジマに

捕まったんぞ。』

 

やはり。

 

『今、ちょうどオカジマ巡査部長が来て

説教されよるわ。』

タツミは涙を流しながら大笑いした。

きゃっきゃっきゃ、アホやのう

ひゃひゃひゃひゃ。あ~苦しい。

体を『く』の字に折って笑っている。

後ろからオカジマ巡査部長が

近づいてきたことにも気づかない。

 

タツミの肩をぽんぽんと叩いて

振り返らせたオカジマ巡査部長は

『タツミ、きさんカンにいらんこと

教えたろ?お前ももう一回

しょっぴくぞ』

とこっぴどく怒られた。

カンは?と聞くとお金を払ったから

許してあげたとのこと。

 

ボクらは急いでカンの家に戻る。

 

カンは部屋でテレビを見ながら

バーガーを食べていた。

 

ボクらの姿に気づくと

気さくな笑顔でこう言った。

 

『おう、一人2万の。』

 

ケイサンガ、アワン

合掌

*注1 【つまらん】ダメという意味。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*