214発目 口程に無い話。


ライナーノーツ
口ではでかいことを言うくせに
たいしたことの無い人っている。

その人もそうだった。

私より10くらい年上の彼は
尊敬できる部分が全くなかった。

一緒に麻雀をしたときだ。
『でかいぞ、でかいぞ』
と満面の笑みでリーチをかける。
上がってみるとピンフのみ
というしょぼい手だったり。

オレは平均睡眠時間が
4時間だ。というわりには
必ず昼寝をしてたりする。

ある晩、飲みに行こうと
誘われたので嫌々つきあった。
案の定、最初っから自慢話の
オンパレードだったが
この頃には我々も慣れてて
ハイハイと聞き流す術を
身に付けていた。

オレはな、喧嘩で顔を殴られた事は
無いんだ。どんなパンチやキックも
避けてきた。

なんだよ!その自慢は!

一同は一様にあきれていた。

その日はかなり遅くまで飲んだ。

でも、平気でしょ?
睡眠時間は4時間だから。

次の日の朝、彼は会社に
来なかった。

昼過ぎに電話があり
こなかった理由をこう説明した。

『朝、起きたら目が見えなかったので
今、眼科に来ている。
精密検査が必要だから
悪いけど今日は休むわ。』

何だよ!その理由は。

まあ、いてもいなくても
大して変わらないので
気にもしなかった。

ところが、その理由は本当だったらしく
次の日にもう一度連絡があり
1ヶ月ほど入院するという。

『何だったんですか?』

そう尋ねる私に彼はこう説明した。

『網膜剥離だってさ。
参ったよ』

もうまくはくり【網膜剥離】
網膜から神経網膜が剥がれることにより
視力視野を失う病気。
眼球に強い衝撃を加えられると
罹りやすい。

なんだよ、それ!

ボクサーでもないのに
ましてや喧嘩で顔を
殴られたことも蹴られたことも
無いくせに。

本当に口程にもないやつだな。

その後、退院してから彼は
退職した。
オレは社長になるんだと言って
独立起業するんだと言って。

で、結局、今は田舎の不動産屋で
働いている。

本当に

クチホドニモナイ

合掌

 

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