210発目 自分の名前が見つからない話。


ライナーノーツ
ノブとは小学校の頃から
仲良しだったんだ。

小5のときに別々の学校に
通うことになったけど
それまで通り仲良しだった。

だから、中学の入学式も
一緒に行こうぜって約束したんだ。

僕んちから中学校までの
行き道の途中にノブの家が
あるから、朝 呼びに行ったんだ。

ノブと二人で
『同じクラスやったらいいのう』
などと言いながら学校に向かった。

正門をくぐると窓のところに
クラス別の名簿が貼り出されている。

1組から順番に見ていった。

僕の名前がなかなか見つからない。
と、思ったら9組の下のほうに
ひっそりと書いてあった。

全部で11クラスあるから
探すのも大変だ。

ノブは?と思い、9組の
上のほうを見る。
ノブの苗字はイクタだから
僕よりも上にあるはずだ。

でもイクタの文字は見つからない。

『ノブ、一緒のクラスじゃ
無かったね』

残念そうな僕の顔を
蒼白なノブの顔が見返す。

『どうした?』

『サトル、オレの名前が無い!』

そんなはずは無いと
もう一度1組から見ていく。

ない!

先生に聞きに行こう。
一緒に行ってあげるよ。

僕はノブと二人で職員室へ
向かったんだ。
ただでさえ緊張する職員室の
しかも今日初めて来た中学の
職員室に行くことで
僕らの緊張はピークだった。

近くにいた先生を捕まえ
事情を話すと、
一緒に探してやろうと
またもや名簿が貼り出されたところに
戻る。

でも、やっぱり無いんだ。

『もしかして隣の中学
やないんか?』

その先生は無責任なことを
言い出した。

もう一度職員室にもどる。

別の先生が近寄ってきた。

どうした?と。

もう一度事情を説明する。

『親御さんに連絡してみろ』

と、アドバイスされる。

ノブは名札の裏に書かれた
緊急連絡先に、この場合は
ノブの母ちゃんの職場だったんだけど
そこにかけてみることにした。

『ああ、母ちゃん。
オレ、どこの中学に行けばいいと?』

『何の話ね』

ノブは3度目の事情説明をする。
最初に比べると説明も若干だが
上手になっていた。

『ああ、ごめん。
あんたに言ってなかったけど
お母さん、離婚したけ
あんた名前がウエダになったんよ』

なんてことだ!
とのけぞるノブ。

もう一度、名簿を見に行く。

確かにウエダノブの名前はある。

良かったな、ノブ。
名前が見つかって。

ん?良かったのか?

ノブは心底、残念そうな
顔でうつむいた。
かける言葉がない。
そりゃそうだよ。
いきなり名前が変わるなんて
僕だったら想像も付かないよ。

『サトル違うクラスやな』

ソッチカーーーイ

合掌

ノブのストーリーは
こちらも併せてどうぞ。
112発目 自由を奪われる話。
137発目 自由を奪われる男の話 その後

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