飛行機で隣に乗り合わせた
カップルがひそひそと
声を潜めて話している。
聞くとは無しに聞いていたら、
というか聞こえてきたのだが。
どうやら佐藤浩市の父親が
だれだっけ?という話だった。
『竜雷太だっけ?』
私は最初のうちは放っておいたが
だんだんとイライラしてきた。
が、見知らぬおじさんが
いきなり話しかけては
気まずいだろうと配慮し、
ここは私が我慢するしかないな
と覚悟を決めたときだった。
前に座るおばさんが
ガバっと身を乗り出して
こちらを振り返り
『佐藤政雄よ』
と言い放った。
カップルは
『あれ~、そうなんだ。
ありがとうございます。』
などとほざいている。
私の我慢の限界も
ここまでだった。
私は隣に座るカップルの
彼氏のほうのわき腹をつつき
こちらを向かせた。
『おい、三國連太郎ぞ』
とこっそり教える。
するとその彼氏が小さな声で
『知ってます。
でも彼女と、この話をするのが
実は6回目で6回とも
佐藤政雄で落ちついたので
今回もこれでいいと思ってます。
彼女、天然なんです。』
と言うではないか。
『大変だな』
私は彼をねぎらった。
カップルがうまく行くための
条件の一つとは
くだらない言い争いを避け
こだわりを捨て、じっと
我慢することなんだな。
と、この若いカップルに
教えられた気がした。
自宅に帰って調べてみると
三國連太郎の本名が
佐藤政雄だった。
あのおばちゃん。
ヤルナ
合掌