現れる?


ライナーノーツ

 

この話をする前に、私は1980年初頭に
あった出来事を話さないわけには
いかないだろう。

当時の私は小学校6年生で
読書と作文が好きな内気な
子供だった。

その日もいつものように放課後に
図書館に行き、本を物色していた。

やがて一冊の本に目を留めた
私は、その本を手にとり
閲覧室へと向かった。

私の前に座っていたのは
目の大きな少女だった。
彼女は私の持っている本を
じっと見つめると、その小さな口を
開いた。
『ねぇ、それ宇宙の本でしょ?
宇宙人っていると思う?
UFOって本当かなぁ。』
『多分、君がいると信じていれば
君の前に現れてくれるよ。』
私は、この話は終わりだという風に
下を向き椅子に座った。
心臓が揺れていた。
ドキドキが止まらない。
そっと目を彼女のほうに向けると
彼女は本を読み始めていた。
うつむいた瞼に長いまつげが
影を作る。美しい。
私が抱いた正直な感想だった。

『UFOが地球に来るときは
空がオレンジ色に染まるらしいよ。』

ほら、と私は開いたページを見せる。
彼女はニコリと笑うと、見せてと
右手を差し出した。
開いたページにはオレンジ色に
染まる夜空の写真が掲載されていた。

『もし私が宇宙人だとしたら
こんなにきれいな空を飛んでくるのね』
ふふふと微笑んだ彼女の横顔は
天使のようだった。

今思えばあれは夢だったのかも
知れない。
その後、彼女を学校内で見かけることも
なかったし、図書館でも見ることは
なかった。

昨晩のことだ。
時計の針は22時を指している。
雪が積もった自宅前の道路は
シン、と静まりかえっており、
まるで町中の人がいなくなったような
錯覚に陥る。

ライナーノーツ

ライナーノーツ

見上げると空がオレンジ色に
染まっていた。
私はあのころを思い出し
もしかしたら彼女が私を訪ねて
宇宙から来たんじゃないかと
思った。

だってそうだろ?
その方がロマンチックじゃないか。

本当に不思議な色の空だ。

翌日、地図を見ていてあることに
気がついた。
あの空の色は、高速道路の街灯で
雪に覆われた空が反射し、
オレンジに染まっていただけだった。

えてして答えが分かると
そうゆうもんだな。

アワイオモイデ

合掌

こちらも併せてどうぞ。
40発目 UFOの話

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